水飯や黙つて惚れてゐるがよき 吉田汀史【季語=水飯(夏)】

酒と賭博の句も多く、どこまでが虚構なのかは分からないが、昭和の無頼派を思わせる詠みぶりも魅力的である。

  夜遊びの座に持ち込みし蝮酒

  西行の歌にも飽きし寝酒かな

  一盞の酔ひ頬にあり山ざくら

  藪からし母の嫌ひしばくち打

  白玉やばくちのあとのはしたがね

  煤逃げにパチンコの玉出るは出るは

母を詠んだ句も多い。戦中戦後の母は苦労が絶えなかったのだろう。母への思慕は、女性への眼差しに繋がってゆく。

  浄瑠璃や母は羅着て泣けり

  絶海をいまも流るる母の雛

  白魚やわれ生みくれし母一人

  白酒に母の裸形をおもひ出づ

乳の色や乳房は、母を思わせると同時に女性に対するエロスでもある。

  乳いろの水母流るるああああと

  花すすき乳房片方出して見す

  雪女郎うすき胸乳に覚えあり

女性への思慕は、エロスを孕みつつ怖くて生々しい表現を生み出した。

  ゆふべ恋蛍けさ死蛍とは

  蛇穴に入る一本の肉の棒

  寂鮎を焼けくちびるの褪せぬ間に

  獵銃も女も寝たる畳かな

  雪女郎なりしか閨の濡れゐたる

  恋猫の舌めらめらと夜を待てり

特に、桃の句のエロスにはどきりとさせられる。

  うつとりと桃の奥には桃の種

  白桃の濡れ身をすする緑かな

  夏桃のひそかに紅きところ吸ふ

刺激的な表現の多い作者ではあるが、俳味のある句も詠んでいる。

  尺蠖に瀬戸大橋は桁はづれ

  ジキル博士もハイド氏も老い日向ぼこ

  霞をば食ふ集まりのありて行く

切れ味の良い俳句を詠む俳人として知られており、表現の斬新さは現在の俳壇に於いても、学ぶべきところが多いのではないだろうか。

関連記事