【第2回】
石田波郷と写真と俳句
石田波郷のカメラ好きは知られています。
昭和24年に、清瀬の療養所で、となりのベッドの患者が楽しそうにカメラを弄っていたのが、写真に興味を持つきっかけになったそうです。
秋晴や肩にローライ手にライカ 石田波郷
波郷にはこのようにカメラを詠んだ句もあります。2台のカメラを持って高揚の気分が伝わってくるようです。江東区砂町の石田波郷記念館には、波郷が愛用していたカメラも展示されています。ここで見たのはドイツ製の二眼レフ、ローライフレックスと、キヤノンのレンジファインダー機でした。
そして波郷は昭和32年3年から翌年の2月まで、読売新聞の江東版で「江東歳時記」を連載しています。これは波郷と新聞社のカメラマンが江東区内を取材して、波郷の文章と俳句、写真という構成です。1年間の連載は115回、そのうち波郷による写真も10回、あとは新聞社のカメラマンによるものです。また一部は「鶴」の同人でもあった村上麓人による挿絵です。
「江東歳時記」は2回書籍化されています。「江東歳時記 清瀬村(抄)」(講談社 2000年)は句と文章で、写真はありません。それより以前の「江東歳時記」(東京美術 1966年)は新聞に掲載された写真も収録されています。東京美術版はネットの古書販売でも希で、出品があっても1万円~2万円と、なかば諦めていたのですが、フリマサイトでたまたま見つけて即購入しました。数百円でした、フリマサイトしばし助かります。
連載時の新聞紙面では文章と俳句と写真が配され、東京美術版の「江東歳時記」では写真のなかに句がレイアウトされています。下はその引用句、括弧内は当方による写真の簡単な説明。
墓の間に彼岸の猫のやつれけり (伊藤左千夫の墓の写真)
草餅やおぐらき方の煙草の火 (柴又の亀屋で草餅作りの様子)
春雷やひしめきのこる雛の目 (農業試験場のひよこたち)
襤褸市や羽影すぎゆく春の鳶 (葛西昇覚寺のぼろ市)
金魚選る暮春の雨けぶらしめ (養魚場での金魚仕入れの光景)
お化け煙突隠れつ現れつヨットの帆 (千住西新井橋下でのヨットと火力発電所の煙突)
水甕に水あふれけり菊作り (大島二丁目、菊作りの光景)
稲架とれて京菜のみどりにほひけり (江戸川区一之江、京菜畑)
牡蠣剥くやかげらふばかり海苔干場 (籠の牡蠣を剥いている、傍に鶏もいる)
寒の水筏もろとも挽きやめず (深川木場、木筏の上で大鋸を動かしている)
春待つや小鳥の中の桂ちゃぼ (亀戸の小鳥店、籠のちゃぼたち)
【注:書籍中で句の拗音は小文字の「ゃ」で表記されていた。】
全体的に俳句と写真は近く、直付けという距離感が多い印象です。波郷が写真と俳句のコラボレーションをどのように考えていたのか、正直なところよく判りません。写俳作品として見る価値はあると思います。
写真も掲載されている東京美術版の「江東歳時記」は入手困難ですが、区立の図書館にも所蔵情報があるので、興味のある方は貸りて読んでみるのをおすすめします。また、江東区の砂町図書館には石田波郷コーナーがあり、この「江東歳時記」も手に取って見ることができます。
【執筆者プロフィール】
倉田有希(くらた・ゆうき)
1963年、東京生れ。「里俳句会」を経て現在は「鏡」に所属。
「写真とコトノハ展」代表。 ブログ「風と光の散歩道、有希編」
【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】