コンゲツノハイク【各誌の推薦句】

【読者参加型】コンゲツノハイクを読む【2023年7月分】


【読者参加型】
コンゲツノハイクを読む
【2023年7月分】


ご好評いただいている「コンゲツノハイクを読む」、2023年もやってます! 今回は11名の方にご投稿いただきました。ご投稿ありがとうございます。(掲載は到着順です)


さくらさくら帽子ころころころがつて

西野雅子

「橘」2023年7月号(通巻547号)より

さらさら風が呼んでるよ
さくらさくら咲いてると
靴がさっささっさと歩きだし
足がさっささっさと動きだし
さくらさくら呼んでるよ
さくらさくら花盛り
さらさら風がふいてるよ
ふわりと帽子 風になる
心の帽子 ころがって
帽子ころころ追いかけて
するするすると
すてきな人が拾ってくれて
きらきら光る笑顔の人が
それからそれから
するするすると
あっという間に
こころころころその人へ
こころこいこいこいごころ
恋の心も咲いてるよ
さくらさくら
ころころ帽子ころがって

月湖/「里」)


廃校の後の廃村蝌蚪生まる

山下桐子

「鷹」2023年7月号より

作者は故郷を出て、都会に出たのだろう。懐かしい思い出のつまった学校が廃校になってしまう。寂しさを覚えたことだろう。その後、村がなくなる。故郷がなくなった。喪失感はいかばかりか。でも、その地には、蝌蚪が生まれる。変わらない営みで。一抹の安心感が漂う。望郷の念は強まる。

加瀬みづき/「都市」)


一島の暮れ残りあり石蓴籠

渡辺純枝

「濃美」2023年7月号(通巻172号)より

雲間に差す光か、波の照り返しか、小さな島が一つ日暮れの内海に点るようにあります
石蓴の岩場には籠が傾き、夕日に縁が光っています
最初、大景小景の対比と読んで視座に迷いました
読み直すうちに、島の夕景と人の一日の名残、自然と人間それぞれの時間、それを対比ではなく包括して詠む、これが風土を詠むということなのかと気づきました
遠景の夕暮れの島から石蓴籠にフォーカスする視点、いつの間にか日暮れの島に生きた身体が包まれる感覚
身体感覚を持って島に溶けていく体験に、万象の一つ一つに繊細に、深く寄り添う作者の心のひだを感じました

土屋幸代/「蒼海」)


のどかさや見本とちがふおかめそば

本多遊子

「閏」2023年6・7月号(通巻第15号)より

夏は板わさやもろきゅうで冷酒、せいろで締める。冬は熱燗でおかめ蕎麦。これ蕎麦屋酒の常道。名の由来は、蒲鉾、なると、卵焼き、椎茸、海老などの具がおかめの顔に見えるから。大阪の卓袱うどんがルーツなので東京では無粋と出さない店もあるが、おかめ蕎麦は有難い。まず具を皿に取り出しこれを摘みながら熱燗を手酌で。品数が多いから他に肴を注文する必要がない。最後に具のなくなった蕎麦を啜る。実にリーズナブルな(貧乏臭い)飲み方だ。

その期待のおかめ蕎麦が見本と違ったら…。私ならとてものどかな気持ちではいられない。作者はおそらくとても心の広い方なのだろう。

種谷良二/「櫟」)


バゲットの気泡ななめにクローバー

日野久子

「南風」2023年7月号(通巻956号)より

バゲットは、細長いフランスパン。薄切りのバゲットの気泡に目をつけて、しかもその気泡がななめだと発見した作者の目のよさに感心した。バゲットは斜めに切ることがほとんどだから、気泡もななめになるのだと思った。取り合わせた季語「クローバー」の軽い語感がよい。おなじ季語でも「苜蓿」や「白詰草」としたのでは、句のおしゃれさがすこし損なわれる。晩春の気候のよいころ、クローバーが見えるようなテラス席で食べる朝食、あるいはピクニックでの軽食だろうか。想像するだけでおいしそうだ。

千野千佳/「蒼海」)


花冷や皿の鬼門に練り辛子

松王かをり

「銀化」2023年7月号(通巻298号)より

この「皿」はとんかつか、はたまたおでんだろうか。「皿」の利き手側やや手前に絞られた、小山をなす「練り辛子」。そこが「鬼門」だというところが面白い。薬味ならば鬼の侵入を防ぐ効力も確かにありそうだ。人々が帰路を急ぐ「花冷」の頃を狙って、鬼たちは「鬼門」をくぐろうとするのだろうか。花を見るために?何かを貪るために?などと思いを巡らせてみるに、はたと、鬼の正体は皿を見下ろしている俺のことではないか、と気付かされ、薬味のありがたみに感謝する次第です。

加能雅臣/「河」)


高く長く防潮堤や北寄剝く

清家馬子

「鷹」2023年7月号より

北寄貝の産地で知られる町に行って、防潮堤の工事に関わったことがある。工事が終わったときは安心した。達成感もあった。でも、高くて長い壁に不自然さを感じた。地元の人に新しくできた防潮堤をどう思うかを聞かないで工事場所を離れたから、そのとき感じた不自然さは心の底に残ったままになっている。掲句の切れ字「や」には、灰色のコンクリートの冷たさを感じた。震災後、海と人の間に生まれた心理的境界線。それが、灰色の「や」だ。

高瀬昌久


花冷や皿の鬼門に練り辛子

松王かをり

「銀化」2023年7月号(通巻298号)より

「皿の鬼門に練り辛子」の措辞が秀逸。時計でいえば二時の位置、北東の方角を鬼門という。皿うどんやちゃんぽん、冷やし中華、シュウマイの小皿など、鬼門の位置に練り辛子をにゅっと置くと見栄えが良く、落ち着く。花冷に乗じてここから災難が降ってくると予感しての位置ではないと思うが、練り辛子をもって鬼を退散させる陰陽師のようではないか。全くの余談だが、我が家の裏鬼門(南西)には台所がある。鬼門は寝室。入り口が水回りじゃないからまあいいかということになり、やむを得ず両方の柱には鬼門鎮護の札が貼ってある。鬼門、裏鬼門の真下が、どういうわけか、愛猫の夏のお気に入りの寝床。寝ているふりをして災いを追い払ってくれていると信じたい。

藤色葉菜/「秋」)


遠き祖は魚類か水か目借時

寺田幸子

「閏」2023年6・7月号(通巻第15号)より

目借は本来「妻狩る」で蛙などが伴侶を求めて鳴き立てる意だったのが、目借の字を当てたことにより、春に眠いのは蛙に目を借りられるからという意味になったらしい。
さて、蛙に目を借りられた人は代わりに蛙の目を得た。
その目を通して進化を辿ってゆく体験をするが、やがて魚類へ到る。
その目に映るのはひたすら水。
それもまた今の水ではない始原の水とも言えるもののはずだ。
魚類もまた水を祖とするものなのだ。
老人の身体における水の割合は約5割、新生児ならば約7割である。
ならば生まれる前はより水の割合は増え、辿り着くその祖はやはり水なのだ。
目覚めると蛙たちの伴侶を求める鳴き声。
魚もやはり伴侶を求めるものである。
この先も連綿と。
水であれば伴侶は必要なかろうに。

田中目八/「奎」)


海の色そのままかけてかき氷

北大路翼

「街」2023年6月号より

かき氷といえばシロップ。夜店で食べるような懐かしい味わいの、氷シロップ。50年以上に渡り親しまれている「井村屋」の氷みつや発売開始から40年の歴史がある明治屋のマイシロップシリーズなど定番商品がある、イチゴ・メロン・ハワイアンブルーなど、赤、緑、青の夏らしい色合い。夜店でも定番のイチゴとメロンは昔ながらの味。この句からは、口の中に涼しさを運んでくれる、、夏の海と空を彷彿させる爽やかなサイダー風味、ハワイアンブルーの味覚も感じられた。

おいしく食べられる甘さの目安は、シロップ1に対してかき氷4という分量だという。

野島正則/「青垣」・「平」)


春蟬になんて明るい曇り空

野名紅里

「秋草」2023年7月号(通巻163号)より

春蟬へのメタモルフォーゼ。早々に土中の闇から羽化した者の短くも明るい生のリアリティ。春蟬を外から見ているのではなく、春蝉「に」成って中から世界を見ている。話し言葉「なんて」には、フィクショナルかつ宝塚歌劇団的ナルシシスティックな独白を感じもし、好き嫌いが分かれるところだろうが、この口語表現こそこの句の眼目であり、それでいいし、下五「曇り空」がこの句にソフトで暖かな落ち着きとリアリティを纏わせて決まっている。

小松敦/「海原」)



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