【冬の季語=初冬〜晩冬(11〜1月)】水鳥
「水鳥」は、水辺に棲息する鳥の総称。具体的には、「鴨」「鳰」「千鳥」「都鳥」「鵞鳥」などの「ことなので、いろいろな水鳥がいるか、あるいは特定したくない(する必要がない)場合に用いられることが多い。また、水に浮いたまま眠っている鳥を「浮寝鳥」と呼ぶ。歴史的仮名遣いは「みづどり」。
これらのほとんどが北方から渡ってくる、いわゆる「渡り鳥」。古来日本から、「雁」が北方から飛来すると、秋の深まりの合図だった。古今和歌集において秋の「雁」は、春の「鶯」、夏の「時鳥」と並び、季節をあらわす代表的な鳥のひとつ。
秋風にこゑを帆にあげてくる舟は天の戸渡る雁にぞありける 藤原菅根
先頭を交代しながら遠距離を渡ってくる雁は、船のマストのようなかたちをしている。いや、むしろ船のマストが、そのような鳥のように「風」を使うことに発しているのかもしれない。
【水鳥(上五)】
水鳥やてふちんひとつ城を出る 蕪村
水鳥のどちへも行ず暮にけり 一茶
水鳥や氷の上につぶらなる 高濱虚子
水鳥のたむろしてをり夜も見ゆ 相生垣秋津
水鳥の聲のかたまり暮天冴ゆ 高田蝶衣
水鳥の夕日に染まるとき鳴けり 林原耒井
水鳥の死や全身に水廻り 村上鬼城
水鳥や夕日きえゆく風の中 久保田万太郎
水鳥に投げてやる餌のなき子かな 中村汀女
水鳥は百万石の畦せせる 阿波野青畝
水鳥を見る人中に宣教師 高野素十
水鳥の水掻の裏見せとほる 山口青邨
水鳥や明日は明日はと人はいふ 星野立子
水鳥の食はざるものをわれは食ふ 阿部青鞋
水鳥の夢宙にある月明り 飯田龍太
水鳥や別れ話は女より 鈴木真砂女
水鳥のしづかに己が身を流す 柴田白葉女
水鳥の足舌の如く水の面に触れぬ 高浜年尾
水鳥の水をつかんで翔び上り 深見けん二
水鳥の死してなほ浮くみちのくは 柳生正名
水鳥の熟寝を誰もうたがはず 鷹羽狩行
水鳥の割り込むほどの数となる 鷹羽狩行
水鳥に瞑る昼のありにけり 宇多喜代子
水鳥の和音に還る手毬唄 吉村毬子
水鳥の月夜も道をつくりをり 吉田鴻司
水鳥を数へゐる間の夕明り 上田日差子
水鳥や夢より怖きものに風 夏井いつき
水鳥のおしりの電気つけてみる 三宅やよい
水鳥の泥をせせりて汚れなし 岩田由美
水鳥や洛北の雲おそろしく 岸本尚毅
水鳥のいくつも浮かびカプチーノ 彌榮浩樹
水鳥や椅子にある人みな睡り 依光陽子
水鳥に会ふときいつも同じ靴 岡田由季
水鳥の目を流れゆく水ばかり 杉浦圭祐
水鳥の何かさがしに離れゆく 如月真菜
【水鳥(中七)】
愛人を水鳥にして帰るかな あざ蓉子
千里来て水鳥の白汚れなし 藤井啓子
一日の終はり水鳥はなやかに 浦川聡子
【水鳥(下五)】
たましひも洗ひ立てなり水鳥は 宮坂静生
【自由律】
れいろうとして水鳥はつるむ 種田山頭火
水鳥水に浮いてゐ夫人はこれにはかなはないと思つても 中塚一碧樓