つめたいてのひら 月が淋しくないように 田村奏天【季語=月(秋)】


つめたいてのひら が淋しくないように

田村奏天


昨日は中秋の名月であった。夏には月涼し、星涼し、冬には寒月、凍星という季題があるように、夜の天体には涼気や寒気を覚えるときがある。掲出の句は、月の冷たさが独りぼっちにならないように、てのひらを温めないままでいるようだ。秋の夜のしずかさは想像を逞しくし、月との交感はいよいよ深まっていく。

田村奏天(たむらかなめ)さんは、2000年生まれ。立教池袋中学・高校を経て、立教大学文学部文学科文芸・思想専修卒業。現在、同大学院文学研究科比較文明学専攻在籍。高校在校中、第20・21回「俳句甲子園」全国大会出場。大学在学時に第4回全国俳誌協会新人賞準賞、第3回全国大学生俳句選手権大会グランプリ受賞。2019年より立教池袋中学・高校文芸部の学生コーチを務める。

詩誌『透けやすい』同人、「夢 短歌会」メンバーなど、詩人・歌人としても活動。詩集に『ヒトノマ』(七月堂、2024)があり、今年5月には総合文芸同人誌『Rich』を創刊。現在、それは立教池袋中学・高校の卒業生、在校生のみで編成されるが、将来的には門戸を開く予定という。作者の別名義は「アトリエ ヒトノマ」。

掲出の句は『Rich vol.1』所収。作者の句として、ほかに<花らんまん 海を掻く手が必死だった>、<短夜を乗り出している湊の樹>、<母の日の唇をいちばんあかるく描く>、<息を吐く 花火が音になったあと>、<柚子の香をおぼえるためのテイク・オフ>なども収録されている。

創刊号には、大学1年生から大学院2年生までの同人(7人)が作品を寄せている。俳句はもちろん、詩や短歌、コラム、論考、戯曲、エッセイ、書評と、幅広いジャンルを扱い、まさに総合文芸同人誌といえる。「ゆくゆくは各ジャンルを代表出来る作家、高みを目指せる作家っていうものが出てきて欲しい」。作者は本誌の対談において、そのようにビジョンを語った。

塵のよく見ゆる日差しの朝寝かな(赤松優一)

その中に雲を宿してゐる木通(蛙多楓太)

淡雪や睫毛に触れてあかるい手(辻村栗栖)

赤ん坊に鹿見せてをり春の水(藤井万里)

作品20句を寄せている同人より一句ずつ抄出。本誌には俳句を発表していないが、同人の品口回ロさんは<緑蔭や現地語で虎といふ街>、おなじく同人の雨宮あみなさんは<道徳の授業を蠅の飛びまはる>を高校時代に創作した。俳句結社に入る方もいれば、無所属を貫く方もいて、それぞれに研鑽を積む作家たちが切磋琢磨できるのは、同人誌の魅力であろう。

私が立教池袋中学・高校文芸部の指導者に着任し、早くも3年半を迎えようとしている。奏天さんは、学生コーチとしての役割を情熱的に果たし、多くの生徒を支えてきた。立教池袋生による『Rich』は、彼を中心にその一歩を踏み出した。自分の道を、自分の足で歩いていく。それは若者ならではの力である。これからも彼らの挑戦を、遠くより見守っていたい。

進藤剛至


【執筆者プロフィール】
進藤剛至(しんどう・たけし)
1988年、兵庫県芦屋市生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。稲畑汀子・稲畑廣太郎に師事。甲南高校在校中、第7回「俳句甲子園」で団体優勝。大学在学中は「慶大俳句」に所属。第25回日本伝統俳句協会新人賞、第10回鬼貫青春俳句大賞優秀賞受賞。俳誌「ホトトギス」同人、(公社)日本伝統俳句協会会員。共著に『現代俳句精鋭選集18』(東京四季出版)。2021年より立教池袋中学・高校文芸部を指導。



2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓



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