蓑虫の揺れる父性のやうな風  小泉瀬衣子【季語=蓑虫(秋)】

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蓑虫の揺れる父性のやうな風

小泉瀬衣子


高濱虚子の有名句に〈蓑虫の父よと鳴きて母もなし〉がある。

もちろん、これには前段があって、蓑虫は「鬼の子」であり、「風の音を聞き知りて、八月ばかりになれば、『ちちよ、ちちよ』と、はかなげに鳴く、いみじうあはれなり」と書いた清少納言のテクストが、下敷きになっている。

そういう意味では、この句は季題の王道をいっているわけだが、しかし時代によって「父」のイメージは変わる。

この喩えから、理不尽なほどに強い風を思う人もあれば、それほど主張のないなかでふと強く吹くのような秋風を思う人もいるだろう。

それは、読み手の「父」のイメージに拠っている。ちなみに作者の「父」は、「港」主宰・大牧広氏。

飄々としたユーモアが持ち味の作家であり、写真で拝見する限りは、温厚そうなイメージの方である。

氏は、句集『朝の森』により第53回蛇笏賞を受賞したが、授賞式の前、昨年4月20日に亡くなった。そして今年、小泉氏は仲寒蟬らとともに「牧」を立ち上げた。掲句は、「港」2019年1月号より。

「父性のような風」に揺られている蓑虫を見るとき、それを見ている作者は、その蓑虫に自分を重ねている。

風がおさまるのを待ちながらも、ミノの中から、ちょっとだけ様子をうかがっている。そんな茶目っ気も感じられる一句だ。

(堀切克洋)

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