神保町に銀漢亭があったころ

神保町に銀漢亭があったころ【第9回】今井麦

ある銀漢亭スタッフの一日

今井 麦(「銀漢」同人)

私は銀漢亭の見習いスタッフ。

今日はお客様の知らない、スタッフから見た銀漢亭の一日をご案内しちゃうよ。

出勤は午後四時。とっくに店に来てキッチンでお料理の準備なんかをしてるマスターに一言ご挨拶してから、開店準備開始だ。

ありし日の銀漢亭。覗くと、誰かしら先客(俳人)がいたものでした。

店頭に注文したお酒が届いてるね、早速整理して所定の場所へ収納しつつ、ついでに在庫チェック。ビールは、冷えてるのが手前に来るように冷蔵庫の奥に入れる。こうしないと、うっかり冷えてないビールをお客様に出しちゃったりするんだ。実際過去にそういうことあったらしいよ。

おっと楯野川、在庫2本あるのにまた2本も届いてる。マスターに注意したら「だって好きなんだもん」って、保管スペース限られてるんだから、注文管理しっかりやってよね。

店内掃除して、焼酎やウィスキーを棚に並べて、生ビールサーバーをセットし、テラス席の椅子と外の看板を出す。結構肉体労働だよね。店内の照明を点灯してドアの札を「Closed」から「Open」に裏返して、午後五時、いよいよ開店するよ。

おっと、お湯割り用のポットの準備も忘れずにね。

銀漢亭のビールサーバー。開店から6時30分までは最初の1杯が200円に。
1杯目から焼酎やウイスキーを飲まれる方も…(6時半までは200円引)

早い時間はたいてい暇、それを狙って銀漢俳句会主宰でもあるマスターにあれこれ相談に来る人も多い。あ、今日も一人来たみたいだね。

やがて常連さんがぼつぼつと来店しだす。基本はキャッシュオンデリバリーの立ち飲み屋さんだから、注文を受けてドリンクを出してお客様の籠から料金をいただく、の繰り返し。お料理の注文はキッチンのマスターに通して、出来上がったらお客様へ。立て続けに注文があるとちょっとパニクるけど、落ち着け、私!

お店の性格上、句会の懇親会や俳句関係者にかかわる祝賀会(句集出版とか、○○賞受賞とか、ね)の団体さんも多い。人数が多いからそれなり大変ではあるけど、こういうお客様は定額のお任せ飲み放題コースが多いんで、注文や会計の手間が無いのは意外と楽だったりする。

店内には入りきれないほどの俳人が。酒の勢いでイベントを開催することになることも。
ところ狭しと並べられる伊那男さんの手料理。でも、差し入れも歓迎です!

時々キッチンをのぞいて、洗い物がたまっていたら片付けていく。ウチの食器は全部食洗器に洗ってもらってるんだけど、ここにも入れてくれないかなあ。

ところで、スタッフって勤務中に飲んで良いのかな。人にもよるけど私の場合は開店から飲み続けちゃうと閉店までもたない恐れがあるんで、途中まではノンアル。そろそろ山越えたかなってタイミングからちょっぴり(?)飲んじゃう感じ。でももちろんお客様が「ごちそうするよ!」って言ってくれた場合は、タイミングにかかわらず、売上貢献のためにも積極的にいただいちゃうけどね。

マスターから、そろそろ閉店との指示。残っているお客様を誘導し、洗い物をテキパキと洗って拭いてしまっていく。

あとは開店の時と反対に、椅子や看板を中に入れ、酒類を片付け、ポットの電源を抜く。

おっと、カウンターに超常連の仲良しさんたちが、まだ残ってるじゃない。じゃあ店は閉めて、これからみんなで角の炒飯屋にでも行く?

白山通り沿いの中華屋で、閉店後のマスターとご一緒することも…

※これは、様々なファクトを元に構成されたフィクションです。

【執筆者プロフィール】
今井 麦(いまい・むぎ)
群馬生まれの東京育ち。2011年、飲み友達の小野寺清人氏に誘われて俳句を始める。2012年「銀漢」入会、2018年同人。俳人協会会員。ビールをこよなく愛し、俳号もそこから。

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