【新年の季語(1月)】去年今年
【ミニ解説】
元日の午前零時に「去年」から「今年」に移り変わる瞬間をいう季語。
一般でいうところの「ゆく年くる年」に近い。
何といっても虚子の
去年今年貫く棒の如きもの
が有名な一句として知られる。
【去年今年(上五)】
去年今年わきて巳年の赤子には 飯田龍太
去年今年変わぬ杖の置きどころ 村越化石
去年今年放心の空ありにけり 山田みづえ
去年今年一と擦に噴くマッチの火 成田千空
去年今年生きるに罹災証明書 小原啄葉
去年今年ひたすら仰ぐ庭の松 青柳志解樹
去年今年墓に凭れる花の束 廣瀬直人
去年今年遅れて還り来る木霊 有馬朗人
去年今年なき闘牛の闘志かな 鷹羽狩行
去年今年理科年表を卓上に 行方克巳
去年今年抱きとある鯉の弓なりに 中田剛
去年今年思ひながらに思ひ古る 岡田一実
去年今年心臓といふ泉あり 篠崎央子
去年今年一緒にゐるといふだけの 杉田菜穂
去年今年君は普通に良い名前 外山一機
【去年今年(中七)】
蛇ゆくごと去年今年なき寝汗の中 川口重美
【去年今年(下五)】
椎敲を重ぬる一句去年今年 高浜虚子
いそがしき妻も眠りぬ去年今年 日野草城
うろたへて八十九齢去年今年 富安風生
炭竃に燃えつづく火の去年今年 松本たかし
句帳へとメモより写す去年今年 阿波野青畝
雑言のかぎりにも倦き去年今年 飴山實
命継ぐ深息しては去年今年 石田波郷
書きかけの原稿置きて去年今年 吉屋信子
病めばただけむりのごとき去年今年 能村登四郎
牧谿の虎濛々と去年今年 飯島晴子
平凡を大切に生き去年今年 稲畑汀子
心の灯ともしつゞけて去年今年 稲畑汀子
暗きより火種をはこぶ去年今年 柿本多映
考えると女で大人去年今年 池田澄子
一打一打鐘を離るる去年今年 伊藤敬子
人形町暖簾変はらず去年今年 齊藤昭信
テレビなき国へ行きたし去年今年 仲寒蝉
天窓を過ぎ行く星座去年今年 片山由美子
雲呑の鰭のゆるやか去年今年 櫂未知子
けものみちゆゑに選びぬ去年今年 櫂未知子
窯焚の火色みつめて去年今年 木暮陶句郎
気がつけば口開けてゐる去年今年 茅根知子
噛み砕きビタミン剤や去年今年 野崎海芋
ノートパソコン閉づれば闇や去年今年 榮 猿丸
着ぐるみの覗き穴から去年今年 石原ユキオ
ソファ凹部戻るに音や去年今年 村越 敦