冬の季語

【冬の季語】風邪

【冬の季語=三冬(11月〜1月)】風邪

たまには風邪を引いて「ぼーっ」とするのも、案外悪くないもの。もしかしたら、浮かばなかったアイデアがぱっと浮かぶかもしれないし、世界の色や手触りもいつもと違って見えたり感じられたりするかもしれない。忘れていた人のやさしさが強く感じられて、人にやさしくなれるかもしれない。案外、風邪をひいているときのほうが、人間は「人間らしく」生きている、とさえいえるかも。

   体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ 穂村弘(『シンジケート』)

俳句では「」「水洟」「」「マスク」あたりも冬の季語。

春に引く風邪は「春の風邪」、夏に引く風邪は「夏風邪」です。


【風邪(上五)】
風邪を引くいのちありしと思ふかな 後藤夜半
風邪の母うつろなる眼を灯に移す 下田実花
風邪声に妻呼ぶ遠き人のごとし 大野林火
風邪の身の錆びたるレール跨ぎけり 榎本冬一郎
風邪髪の櫛をきらへり人嫌ふ 橋本多佳子
風邪の身にながき夕ぐれきたりけり 桂信子
風邪寝われ止りし時計に見下ろされ 菖蒲あや
風邪の身の大和に深く入りにけり 波多野爽波
風邪ときゝ流しもならず電話する 高濱年尾
風邪熱の下がりてもとのみじめさに 右城暮石
風邪うつしうつされわれら聖家族 伊藤白潮
風邪衾かすかに重し吾子が踏む 能村登四郎
風邪の夢ときをり雲を踏み外す 藤田湘子
風邪抜けてゆく山川に日潤ひ 矢島渚男
風邪引いて昼の長さよ隅田川 岩田由美
風邪ひいて木星の重さだろうか 五島高資
風邪引いて卵割る角探しをり 田中哲也
風邪はやりはじめの町のぬるき風 大西朋

【風邪(中七)】
死ぬること風邪を引いてもいふ女 高濱虚子
壁うつす鏡に風邪の身を入るる 桂信子
妻がいふ風邪の我儘許しけり 上村占魚
装ひてしまひて風邪の顔ありぬ 田畑美穂女
絵屏風を立てて風邪寝の部屋らしく 八田木枯
岬にて颯爽と風邪ひきにけり 大牧広
悪性の風邪こじらせて談志きく 高田文夫
頬杖の風邪かしら淋しいだけかしら 池田澄子
いいわけに程よき風邪をもらひけり  中野智子
水にゐるごとくに風邪を保ちゐる 鴇田智哉

【風邪(下五)】
あきらめしうつろ心に風邪ひきぬ 林原耒井
おもふこと遠くもなりぬ風邪に寝て 臼田亞浪
月のものありてあはれや風邪の妻 森川暁水
ほつれ毛を噛みて起きをり風邪の妻 森川暁水
この子亦髪伸びてきて風邪らしも 京極杞陽
久方の麻生病院院長風邪 塚本邦雄
鬼平が好きな老人風邪引かず 尾村馬人
午後五時のもう真つ暗の風邪寝かな 本井英
似顔絵の唯一似たる風邪の髪 対馬康子


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