明日のなきかに短夜を使ひけり
田畑美穂女
今年は、7月19日から夏休みとなる学校が多いらしい。だとすれば、高校は、そろそろ期末試験だろうか。試験期間中、部活が休みになるのか、ならないのか、学校や部活によっても違うのだろう。先週の土日、近所にあるバスケ部の強い高校は、体育館もグラウンドもひっそりとしていた。
学生時代、中間テストや期末テストを始めとするテスト全般を恐れていた。勉強はしたくないけれど、怒られるのも嫌なのだ。だから、試験の前日は、藁にも縋る気持ちで、記憶力がアップするというような白魔術(おまじない)を試す。しかし、白魔術で使うアイテム、例えば、薔薇の朝露(誰にも見つからないように集める)を用意することは、かなり難しい。結局、勉強もしていないし、白魔術も効かないしで、残念な結果だけが残る。薔薇の朝露を集めようとしたりしないで、英単語の一つでも覚えればよかった。
インターハイの神奈川県予選が終わり、全国でも次々と出場校が決まってゆく。初出場を決めた湘北バスケ部の部員たちも、1週間の合同合宿を行うこととなり、気合いは十分。しかし、そこに立ちはだかる次なる壁が成績だ。湘北高校には、期末試験で赤点が4科目以上ある者は、インターハイに出場できないという校則がある。追試を受ける部員は、三井、宮城、流川、花道。いずれも、湘北バスケ部の主力メンバーだ。是が非でも追試に合格しなくてはならないということで、赤木の家で勉強合宿が行われる(新装再編版14巻158〜169ページ)
明日のなきかに短夜を使ひけり
「短夜」とは夏の夜の短い感じのことで、「明易し」ともいう。「明日のなき」は、明日があるかどうかわからないということだが、人の命のはかなさや、死期が迫っていることの比喩としても使われる。この句の場合は、余命わずかだということではなく、明日がないという気持ちで短夜を使った、この夜を大切に使った、という意味だろう。あと数時間すれば、東の空が明るくなってくる短夜には、見通しの良さがある。とはいえ、それなりには、逼迫していて、一夜漬けの仕事や勉強、それ以外でも、短夜を使ってなんとかしなくてはならない状況だ。
作者は、1909年に大阪、船場の道修町に生まれた田畑美穂女。私は、お会いすることはできなかったが、美穂女と親しくされていた方々はみんな、船場言葉の美しい、チャーミングな方だったと言う。夫が亡くなったあとは、自ら家業を引き継ぎ、製薬会社の社長を務めた。
赤点軍団の4人は、優等生軍団の赤木、木暮、彩子、助っ人で急遽呼ばれた晴子に教えられながら徹夜で勉強し、無事、全員が追試をクリアした。近づくインターハイ、湘北は同じ短夜を過ごしたメンバーで挑む。
(岸田祐子)
【執筆者プロフィール】
岸田祐子(きしだ・ゆうこ)
「ホトトギス」同人。第20回日本伝統俳句協会新人賞受賞。
【岸田祐子のバックナンバー】
〔1〕今日何も彼もなにもかも春らしく 稲畑汀子
〔2〕自転車がひいてよぎりし春日影 波多野爽波
〔3〕朝寝して居り電話又鳴つてをり 星野立子
〔4〕ゆく春や心に秘めて育つもの 松尾いはほ
〔5〕生きてゐて互いに笑ふ涼しさよ 橋爪巨籟
〔6〕みじかくて耳にはさみて洗ひ髪 下田實花
〔7〕彼のことを聞いてみたくて目を薔薇に 今井千鶴子
〔8〕やす扇ばり/\開きあふぎけり 高濱虚子
〔9〕人生の今を華とし風薫る 深見けん二
〔10〕白衣より夕顔の花なほ白し 小松月尚
〔11〕滅却をする心頭のあり涼し 後藤比奈夫
〔12〕暑き日のたゞ五分間十分間 高野素十
〔13〕夏めくや海へ向く窓うち開き 成瀬正俊
◆映画版も大ヒットしたバスケットボール漫画の金字塔『SLAM DUNK』。連載当時に発売された通常版(全31巻)のほか、2001年3月から順次発売された「完全版」(全24巻)、2018年に発売された「新装再編版」(全20巻)があります。管理人の推しは、神宗一郎。