桜蘂降り敷く墓に眠りけり 小川みゆき【季語=桜蘂降る(春)】

桜蘂降り敷く墓に眠りけり

小川みゆき

まず心に浮かんだのは、桜の花が終わったあとの静かな時間です。
降り敷いているのは花びらではなく桜蘂であり、桜の花びらという華やぎのその中心にあったものが、遅れて地上に降りてくる頃です。

もしも花びらが墓を覆っているとしたら、別れや寂しさの印象が強くなったかもしれません。しかし桜蘂となると、葉桜の気配がすでに始まり、これから地上が新しい緑へと向かっていく季節の移ろいが感じられます。
静かに降り積もる桜蘂は、終わりであると同時に次の季節への橋渡しのようでもあります。

桜蘂は、地上に静かに降り、やがて土に還り、次の季節へと移っていく。
「墓に眠りけり」と結ばれることで、そこに眠る存在もまた、自然の大きな循環の中に安らかに置かれているように思われました。
悲しみを強く語るのではなく、季節のめぐりの中で静かに眠るものとして捉えられている点に、やわらかな眼差しと、静かな継承のような感触を感じました。

桜蘂が降り敷く光景は、過ぎゆくものへの思いとともに、これから始まる季節への気配も伝えています。
眠る者は終わった存在ではなく、季節が巡るなかで、今を生きる者の背後に静かに在り続けています。

『ホトトギス』平成二十二年十二月号 所収

菅谷糸


【執筆者プロフィール】
菅谷 糸(すがや・いと)
1977年生まれ。東京都在住。「ホトトギス」所属。日本伝統俳句協会会員。




【菅谷糸のバックナンバー】
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