団欒も夜業も同じ灯の中に 抜井諒一【季語=夜業(秋)】

【木曜日】は2か月交代で〈大学俳句会〉のみなさんにご執筆いただいています。「北大俳句会えぞりす」からのバトンが渡ったのは福島大学俳句会。初回は金光舞さんです。


団欒も夜業も同じ灯の中に

抜井諒一

金光舞(福島大学俳句会・「梓」「むじな」)


 抜井『残影』より一句。「団欒」と「夜業」。人と語らいくつろぐ時間と、夜遅くまで仕事に励む時間が「同じ灯の中に」置かれている。食卓を囲む人も、机に向かって働く人も、それぞれの営みを抱えながら同じ灯の中に包まれて夜を過ごす。「も」には、どちらも大切な暮らしの一場面であることを思わせる力があり、灯の下で重なる日々の営みをそっと肯定する、あたたかな句である。本論ではこのあたたかな一句をはじめとする抜井の句集『残影』をより全体的な視点から見ていきたい。

抜井諒一「残影」―結晶論―
金光 舞 
目次
一 はじめに
二 先行研究概観
 二―一 第四回稲畑汀子賞選考過程
 二―二 『残影』への言及
三 「花下残影」比較
四 テクスト分析
五 「残影」―結晶論
六 終わりに

一 はじめに

 抜井諒一『残影』は、過ぎ去りゆく日々の翳りや残影を掬い上げた第三句集である。前句集『金色』から五年を経て刊行され、季節ごとに編まれた四章に、県内で見た桜を詠んだ「花下残影」を加えた全五章、三三一句から成る。第五章「花下残影」の前身となる抜井の発表作「花下残影[一]」は二〇二五年三月に第三六回日本伝統俳句協会賞を受賞、二〇二六年五月には同協会主催の第四回稲畑汀子賞を受賞した。抜井は一九八二年生。第六五回角川俳句賞大賞をはじめ、石田波郷新人賞奨励賞、日本伝統俳句協会新人賞、星野立子新人賞、村上鬼城賞新人賞などを受賞し、櫂未知子と佐藤郁良が共同代表を務める俳句同人誌「群青」に所属。伝統派・写生派の俳人として高い評価を受けており、「ホトトギス」の同人として自然を素直に写生すると評される山本素竹に師事している。

 『残影』には、日常の何気ない場面や自然の変化を捉えながら、そこに時間の経過や人の営みを感じさせる句が多く見られる。たとえば〈白靴の知らざる森の暗さかな〉では未知の場所に立つ感覚を、〈玉虫を逃がして授業再開す〉では一瞬の出来事と日常への回帰を描く。また〈枯れ切つて完成形となりにけり〉〈実をぜんぶ落として春を待つばかり〉のように、植物の姿を写生しつつ、衰えや再生を時間の流れの中で捉える句もある。さらに〈冬ぬくし小さくなつて子と話す〉〈団欒も夜業も同じ灯の中に〉には、人と人との関係や生活の温度が表れている。本論では、『残影』の作品を個々の句として読むだけでなく、句集全体を一つの結晶として捉え、先行研究を踏まえながら、その構成や表現、時間意識、写生のあり方について分析・考察する。

 また、本論タイトルになっている「結晶」について定義しておきたい。後に触れる抜井流の俳句連作の作り方にて、抜井は「個から全へ」という実作方法を提示している。それを踏まえ、またこの作品群を全体として見つめるという視座より「結晶」という語を用いる。これはあくまで私独自の考えであり、そういう見方もできるというひとつのアプローチ方法に過ぎないことを留意していただきたい。

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