【春の季語=仲春〜晩春(3〜4月)】朧
【ミニ解説】
春は大気中の水分が多く、ものがけむって見えます。その状態を俳句では、昼に「霞」、夜に「朧」の季語を当てます。
響きがやわらかく、あいまいなイメージを持ち、どこか怪しくもある「朧」は、古くから俳人に親しまれてきました。
基本的には視覚的な季語ですが、「草朧」とすれば匂いが感じられ、「鐘朧」とすれば音が聞こえます。このようにさまざまな語に付けて用いられます。
夜になれば「朧夜」。月が出ていれば「朧月」。
【朧(上五)】
朧とは松の黒さに月夜かな 其角
朧なり次の朧はまだ見えず 原田喬
朧にて寝ることさへやなつかしき 森澄雄
朧なり白猫ふつと消ゆるなり 秦夕美
おぼろなる記憶の底に花電車 竹﨑あき
おぼろおぼろ我をつつみてゐし胞衣も 杉山久子
【朧(中七)】
さざめきは水の朧に棹す舟か 高浜年尾
訪ね来よ朧の路地の行どまり 松根東洋城
門川の夜々のおぼろとなりにけり 安住敦
長生きの朧のなかの眼玉かな 金子兜太
いつの世も朧の中に水の音 桂信子
篳篥の朧濃くなるディナーショー 前田英士
【朧(下五)】
辛崎の松は花より朧にて 松尾芭蕉
天心に光いきづくおぼろかな 川畑茅舎
雀四五日来ずよ庭木の風おぼろ 渡辺水巴
さる方にさる人すめるおぼろかな 久保田万太郎
子を産みしことさへいつの朧かな 野田翠
人の死は灯をこうこうと朧なり 和知喜八
こやりゐてきく石手寺の鐘朧 神尾静光
折鶴をひらけばいちまいの朧 澁谷道
取り除く土の山なす朧かな 駒木根淳子
メロンパン体内すこし朧なり 奥坂まや
約束の時間が過ぎてゆく朧 津川絵理子
【朧(その他)】
草庭のおぼろこの世のおぼろかな 眞鍋呉夫
【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】