この「たけのこ」もとは上方落語ですが、東京でもよく演じられています。私のお気に入りは柳家喜多八のそれ。キャッチフレーズは「清く、気だるく、美しく」。虚脱体質を理由に、ボソボソともの憂げにまくらを話しながら、いざ噺に入ると声と眼光は生気を放ち、軽快なテンポと独自の演出で、地味な噺も爆笑に変える凄腕でした。残念ながら2016年に66歳の若さで亡くなり、落語ファンを大いに悲しませました。
喜多八の「たけのこ」は、隣り合う二軒の主人の人物造形が魅力です。最初に登場する武士は、食い意地より、隣家の年寄り武士を悔しがらせたいがために“口上”に頭をひねり、隣家は隣家で、吝嗇というより若い武士をぎゃふんと言わせたいという趣。「亡骸だけはお下げ渡しを」という見事な切り返しに遭った若い武士の「あのジジイ、なかなかやりおるな」というセリフを、喜多八は口惜しさよりも嬉しさが勝るかのように微苦笑を浮かべて口にします。まるで「さすが我が好敵手」とでも言いたげに。普段の二人の関係性が浮かび上がる巧みな演出です。
落語「たけのこ」について説明した以上、もうひとつ別の句に触れておかねばならないでしょう。
竹の子や隣としらぬはえ処 子規
正岡子規、明治25年の作です。先の一茶句の変奏のような内容ですが、落語「たけのこ」を知った後だと、子規がこの噺からヒントを得たという想像も許されると思いませんか。寄席通いを好んだ子規なら、「たけのこ」の高座に巡り合っていたとしても不思議ではありません。
最後に蛇足ながら、“越境竹の子”の所有権について。民法第233条4項いわく「隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる」。現代日本では、庭にひょっこり出てきた竹の子を手打ちにしても、隣家からの亡骸下げ渡し要求に応じる必要はないということで。
2008年4月30日 博品館劇場での独演会がCD「喜多八膝栗毛 明烏/目黒のさんま/たけのこ」(日本コロムビア)に収録されています。この高座はAmazonのオーディオブック「Audible(オーディブル)」からも聴けます。

【執筆者プロフィール】
三橋五七(みつはし・ごしち)
蒼海俳句会所属。第70回角川俳句賞次席。中学1年生のときにたまたまラジオで聴いた十代目金原亭馬生の「抜け雀」に衝撃を受けて以来の落語ファン。Xアカウント x.com/Goshichi_57
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