除草機を押して出会うてまた別れ 越野孤舟【季語=除草機(夏)】


除草機を押して出会うてまた別れ

越野孤舟(こしのこしゅう)(星野立子)


連休を一回も交通機関に乗らず、すべて徒歩圏内で暮らした割に、感染者数もなんだか微妙な金曜、それにしても休日が過ぎるのは早いと思う金曜ですよ。(でも明日から、また、お休みですよ。)

「ホトトギス」一九四五年十月号は特別な号だ。表紙に「六月号とひて編集せしも之を以て十月号とす」とある。少し前から最終ページは「玉藻」に充てられ、一年前の主宰の句を掲載する(この頃は巻頭にあった)「句日記」も一九四四年五月から十月までが一挙に掲載されている。終戦を跨ぐように編まれたこの号は、(「玉藻」を含めて)15ページからなる。

「小諸 立子」「芦屋 年尾」「東京 杞陽」「京都 美穂女」「三国港 柏翠」「同 愛子」「東京 はん女」…と、ハイクノミカタでも見た名が混じる雑詠は三段組みで7ページ、「在埼玉」など、疎開など一時滞在らしき表記も見られる。

巻頭でも二句、雑詠2ページ目からは一句となる。その一句欄の中にあるのが掲句だ。

田植が済むなり草との戦いの始まる田を、手押しの除草機が行き交う。のどかな田園風景の中に繰り返される往来を、小さな出会いと別れの構図と見て取った。響きはたのしげだ。

このため、逼迫した物資状況を押して出版された雑誌に載せる句としては、のんびりしていると感じる向きもあるかもしれない。

しかし、その一方では、そんな時にも人々の営みがあって、さらに、そののどかな中にさえ、出会いも別れも見て取ることができる。いつも日常で、いつもが非日常といえるのかもしれない。

越野弧舟は戦争中に空襲で西宮の家を失い、その後、賃貸住宅に暮らしたが、それが戦中のどの時点であったかはわかっていない。この前の号となる五月号での投句の地名は「福井傷療」として出されており、句はその時のものか、別の記憶によるものか、西宮の景色かなどははっきりしない。

この越野弧舟こそは私の曽々祖父である。どうも俳句を少しは作っていたという程度で名前さえ知らなかった弧舟。養子として入った家の職業に自らもつきながら、俳句に楽しみを見出して早々に仕事を引退、俳句に打ち込む晩年を過ごしたそうだ。

移動制限のために親戚と直接会う替わりに電話で連絡を取り合ううちに、意外な曽々祖父の姿が見えてきたのは、緊急事態宣言のひとつの収穫かもしれない。生前の句集は見当たらず、弧舟の娘と、弧舟の孫の遺句集が残るのみだ。

連休明けのファミリーヒストリーにお付き合いいただきありがとうございました。連休の疲れ(?)も癒えて、また元通りのペースを取り戻す週末となりますように。

『ホトトギス』(1945年10月号)所収

※この「ホトトギス」一九四五年十月号は二年前の正月、邑書林で見せてもらった中に、偶然、その名を見つけ島田牙城氏に贈られたもの。

阪西敦子


【阪西敦子のバックナンバー】
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>>〔5〕手を敷いて我も腰掛く十三夜     中村若沙
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>>〔1〕やゝ寒し閏遅れの今日の月      松藤夏山


【執筆者プロフィール】
阪西敦子(さかにし・あつこ)
1977年、逗子生まれ。84年、祖母の勧めで七歳より作句、『ホトトギス』児童・生徒の部投句、2008年より同人。1995年より俳誌『円虹』所属。日本伝統俳句協会会員。2010年第21回同新人賞受賞。アンソロジー『天の川銀河発電所』『俳コレ』入集、共著に『ホトトギスの俳人101』など。松山市俳句甲子園審査員、江東区小中学校俳句大会、『100年俳句計画』内「100年投句計画」など選者。句集『金魚』を製作中。



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