◎「酒米」へのこだわり
――酒米は毎年同じ契約で同じ農家から買われているんですか?
中井 いえ、ほとんどは問屋さんから買ってます。米の出来は毎年違うんですけど、でも見ればだいたいわかるようになってきます。
――酒造のラインナップを見ると、けっこういろいろな酒米を使って作られていますよね。「渡舟」や「愛山」は、ぼくはいままでに飲んだことはない酒米です。米のこだわりがあれば教えてください。
中井 ぼくらは「かたい」米が苦手やから、「やわらかい」米を選んで買ってるんです。滋賀には「玉栄」という酒米があるんですけど、それはもう使ってない。「渡舟」なんかは山田錦のお父さんなんで、すごくつくりやすいですし、「愛山」は山田錦の孫に当たる米なんです。
――たぶん初めての米を使うときって、初めて使う季語とおんなじで、商品が完成するまでのあいだに、かなり隔たりがあるじゃないですか。どうやって「米」から「商品」のイメージを作っていくんでしょうか。
中井 酒造りって、いちばん難しいのは原料処理なんです。要は、吸水をどんだけするかということですね。吸水中の酒米を見れば何パーセントくらい吸ってるかはわかる。酒母の麹米ってちょっとしか作らないんですけど、そこで失敗したら蒸して純米酒とかに放り込んだりして、もういっぺん洗い直し。最近は失敗自体がほとんどないですけど、二回失敗することはないですね。

――これからチャレンジしてみたい酒米とかっていうのはありますか。
中井 いまね、クラウドファンディングで資金を集めて、滋賀県のお米をぜんぶ使った「オール滋賀」っていう酒を作りはじめたところなんです。もち米やふつうのごはんとかになる「うるち米」もぜんぶ集めて、磨いて、滋賀の酒作ろうと。
――すごい。面白い企画ですね。
中井 でもね、どうしても手に入らない米があったんです。商社が農家と契約栽培で作っていたりすると、外には出なかったりするのがあって。29品目のうち23しか集まらなかった。じゃあ「オール滋賀」って言えへんやん!ってことで、「オールモスト滋賀」ってことになりましてね。「ほぼほぼ滋賀」ですね(笑)それを今年作って、クラファンでいっかい出してみよと思ってるんですけど、もうね、「浪乃音」とはぜんぜん違う味になってます。
――23品目のうち、初めて買った米はどのくらいあるんですか?
中井 使ったことあるのは「山田錦」と「日本晴」と「イセヒカリ」3つだけかな。「きぬひかり」とか「こしひかり」とか、ふつうの米もありますから。ほとんど酒米じゃなくて飯米ですわ。
――飯米だといちばん何が違うんですか?
中井 やっぱり吸水時間ですね。長いこと水につけておかないといけないんです。どんなんなるかなと思って不安やったんですけど、甘味もあったし余韻も複雑さがあって。「浪乃音」の辛口純米と純米酒とオールモストを並べて利酒したら、オールモストは評判よかったんです。だから今年いっぺん出してみようと思ってるんです。
――昔は「禁じ手」だったのかもしれないですけど、最近は日本酒のブレンドも目にすることが増えてきました。
中井 毎月、店頭で計り売りをやってるんですよ。基本、うちのお酒ってぜんぶ「シングルモルト」なんですけど、計り売りならラベルも貼らんでいいから、何でもできるんです。「渡舟」の新酒と去年のやつをブレンドしたりとか。「山田錦」をブレンドしたりとか。メスシリンダーでブレンドして「これうまいやん!」ってやつを店頭に出してるんです。ブレンドすると美味しくなるんですよ。
――混ぜると複雑になるという経験則があるんですね。ブレンドをやってみようと思いたったきっかけは何ですか?
中井 ブレンドやりはじめたんは5年前なんですけど、売る酒の種類がだんだんなくなったことがきっかけですね。じゃあ「雄町」と「渡舟」混ぜてみよか、みたいな話になって、やってみたらものすごく美味しくてね。「ブレンド純米大吟醸」とか勝手に名前決めて(笑) 季節商品でなんですけど、二種類のブレンドしてる新商品も作って売ってます。あとは「中汲み」言うて、特殊なところとって出したりもしてますね、計り売りでは。
――「中汲み」も飲んだことないんですけど、どういう特徴があるんですか?
中井 タンクのなかから出した醪を酒袋に入れて搾るんですけど、はじめ搾って最初出てくるのが「新走り」で、濁ってるんです。それが透明になったところから「中汲み」で、出なくなってプレスして出したのが「責め」。「中汲み」がいちばん雑味が少なくておいしいとされてるんです。数があんまり取れないんで希少ですね。
――修行中の息子さんとは情報交換というか、いろいろ連絡を取り合ったりしてるんですか?
中井 情報交換もしてるし、福島まで遊びにいったときにはぼくも勉強させてもらったりしてるんですけどね、いろんな意味で福島はすごいですよ! 今、日本酒業界を引っ張ってるのは福島だと思います。
――実はぼく、生まれが福島なんです。毎年、金賞の数とか自慢げにしてますけど、あれはやっぱりすごいことなんですね……ちなみに「天明」〔曙酒造〕さんを選ばれたのは、どういう経緯なんですか?
中井 「天明」さんは先代の社長からよく知っていて、若いときから可愛がってもらってたんです。息子の孝市くんがね、蔵に入る前にちょっとだけですけど、酒造りしにうちに来たりしてたんです。そんときから、うちの息子のときは頼むでって話をしてて。いざ頼んでみたら、お嫁さんにも近くの酒屋さんのアルバイトを見つけてくれて、お世話になることになりました。
――なるほど。研修ってそういう仕組みなんですね。修行しながらお金が払われる。
中井 お金をもらいながら向こうで生活してるわけです。嫁さんは出産したのでもうやってませんが、それまでは近くの酒屋でアルバイトさせてもらってました。
――ちなみに杜氏さんを呼ぶときもお支払いするんですよね? それってどういう契約なんですか? 月給制なんですか?
中井 どうしてたかなあ……月給……いや、日給ですわ。そんで吟醸つくれる杜氏とつくれへん杜氏で相場が違ったような記憶がありますわ。能登杜氏よりは南部杜氏のほうが高いとか、そういうのもあるのかもしれないな。

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