神保町に銀漢亭があったころ

神保町に銀漢亭があったころ【第41回】矢野玲奈

小道具いろいろ

矢野玲奈(「玉藻」「天為」同人)

地下鉄神保町駅のすぐ上にある取引先に訪れるのは一年に一回くらいであったが、その取引先のビルの脇を抜けてすぐの銀漢亭には毎週のように通っていた気がする。

句会があるから、誰々の誕生日会だから、荷物の受け渡しがあるから、仕事で疲れたから……。様々な理由をつけ訪れていたのは、日中の仕事から解放される心地良さがあったからだと思う。それはけっして私だけではない。銀漢亭を出てすぐの路上で横たわる酔っぱらったオトナ、雪合戦をするオトナ、ダンスミュージックをかけて踊り狂うオトナ等々がいる不思議な空間だった。

店主・伊藤伊那男さんが主宰なさっている俳句結社「銀漢」では結社の大会で仮装やダンスの出し物をするらしく、その時の小道具が銀漢亭に置いてあった。

猫耳のカチューシャは、初心者向け。突然つけられても断る人はいないし、むしろ自分からすすんでつける人が多い。私も誕生日会で、猫耳をつけて何度も乾杯した。

前髪ウィッグは、中級者向け。伊那男さんが装着するとたちまちキュートな乙女になる。あまりに自然な感じなので、伊那男さんにツッコミをいれることを忘れてしまう。

禿ヅラは、上級者向け。誰かが被ったから小道具としてあるはずなのだが、私以上に似合っている人を見たことがない。評判が良すぎて、某氏の出版記念パーティーでも被ってご挨拶をしたくらいである。それもそのはず、この禿ヅラを被った私に瓜二つの人物も銀漢亭に出入りしていた。その人物とは「玉藻」同人矢野春行士。私の父である。

(2011年の誕生日会のときの一枚。中央・初心者向けの猫耳をつけているのが、矢野玲奈さん。左は篠崎央子さん、右は阪西敦子さん。)

【執筆者プロフィール】
矢野玲奈(やの・れいな)
昭和50年生まれ。「玉藻」「天為」同人。句集『森を離れて』(角川書店、2015年)



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