ハイクノミカタ

立ち枯れてあれはひまはりの魂魄 照屋眞理子


立ち枯れてあれはひまはりの魂魄 

照屋眞理子


枯向日葵というのは歳時記には載っていないと思われるが、秋または冬の季語となるだろう。作者は句集の秋の部に入れている。

向日葵ほど、花と枯れた後の見栄えに落差のある花はないだろう。夏の盛りに大輪の花を咲かせ、その花いっぱいに日の光を浴びていきいきと輝く向日葵も、秋になると花は黒い実の集合体になり、がくりと俯いてしまう。あれほど子どもたちに愛された向日葵も、こうなっては見向きもされず、むしろ汚らしいと嫌われさえするかもしれない。

一植物体としての向日葵の寿命は尽きようとしているが、その生命は実のひとつひとつに受け継がれる。そう考えると、枯れてからの方が文字通り充実している存在ということもできる。人間に魂があるかないかは私にはわからないが、死んでなお残るものがあるとすれば、向日葵の種のようなものだというのだろう。

この句がいつごろ作られたものかはわからないが、作者の亡くなったあとに、向日葵の大粒の種のように多くの俳句や短歌が残されたという事実をみれば、作者の魂魄は次の世代へと確かに受け継がれているのだと思える。

作者の照屋眞理子は、2011年より「季刊芙蓉」の代表を務めていたが、2019年、68歳で逝去。もっと活躍していただきたかった。掲句は最後の句集となった『猫も天使も』(2020年)より。

(鈴木牛後)


【執筆者プロフィール】
鈴木牛後(すずき・ぎゅうご)
1961年北海道生まれ、北海道在住。「俳句集団【itak】」幹事。「藍生」「雪華」所属。第64回角川俳句賞受賞。句集『根雪と記す』(マルコボ.コム、2012年)『暖色』(マルコボ.コム、2014年)『にれかめる』(角川書店、2019年)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

  1. わが家の見えて日ねもす蝶の野良 佐藤念腹【季語=蝶(春)】
  2. 屋根替の屋根に鎌刺し餉へ下りぬ 大熊光汰【季語=屋根替(春)】
  3. 四月馬鹿ならず子に恋告げらるる 山田弘子【季語=四月馬鹿(春)】…
  4. 刈草高く積み軍艦が見えなくなる 鴻巣又四郎【季語=草刈(夏)】
  5. 「月光」旅館/開けても開けてもドアがある 高柳重信
  6. 完璧なメドベージェワが洟を擤む 秋尾敏【季語=水洟(冬)】
  7. 水の地球すこしはなれて春の月 正木ゆう子【季語=春の月(春)】
  8. 水喧嘩恋のもつれも加はりて 相島虚吼【季語=水喧嘩(夏)】

おすすめ記事

  1. 水の地球すこしはなれて春の月 正木ゆう子【季語=春の月(春)】
  2. 【短期連載】茶道と俳句 井上泰至【第3回】
  3. 俳人・広渡敬雄とゆく全国・俳枕の旅【第54回】 宗谷海峡と山口誓子
  4. 【冬の季語】豆撒く
  5. 【冬の季語】冬至
  6. 夏草を分けまつさをな妣の国 恩田侑布子【季語=夏草(夏)】
  7. 【連載】歳時記のトリセツ(5)/対中いずみさん
  8. 一天の玉虫光り羽子日和 清崎敏郎【季語=羽子板(新年)】
  9. 神保町に銀漢亭があったころ【第110回】今井康之
  10. バレンタインデー心に鍵の穴ひとつ 上田日差子【季語=バレンタインデー(春)】

Pickup記事

  1. 死はいやぞ其きさらぎの二日灸 正岡子規【季語=二日灸(春)】
  2. 【新年の季語】人日
  3. 春暁のカーテンひくと人たてり 久保ゐの吉【季語=春暁(春)】
  4. 【結社推薦句】コンゲツノハイク【2022年1月分】
  5. 葛の花むかしの恋は山河越え 鷹羽狩行【季語=葛の花(秋)】
  6. 【冬の季語】冬日
  7. きりぎりす飼ふは死を飼ふ業ならむ 齋藤玄【季語=螽蟖(秋)】
  8. t t t ふいにさざめく子らや秋 鴇田智哉
  9. 【連載】歳時記のトリセツ(7)/大石雄鬼さん
  10. 【連載】新しい短歌をさがして【18】服部崇
PAGE TOP