神保町に銀漢亭があったころ

神保町に銀漢亭があったころ【第60回】片山一行

川柳もあった銀漢亭

片山一行(「銀漢」「麦」同人)

銀漢亭に初めて行ったのが、2008年の3月。小野寺清人さんらに「銀漢句会」に誘われて参加し、その流れだった。都心のサラリーマンではなかったせいか、店にお邪魔するのは句会のときだけ。しかしこれが翌年の1月から少し変わる。

「湯島句会」に参加し始めたのだ。

さまざまな句が集まるこの句会は、私の句に合っていたのか、毎月参加するようになった。そんなとき秋葉男さんに、父が川柳をやっていることを話した。

「一行ちゃん、お父さんにも俳句出してもらおうよ。同じ17文字。湯島は異種格闘技の場だからさ……」

などと無茶な(笑)説得を受け、父に話すとまんざらでもない。ただ旧仮名、季語、切れも分からないから、「おまえに7句ほど送るけん、そこからええやつを5句選んで出してくれ」……ということで、2010年5月から投句での参加になった。選に入った場合の名乗りは息子である。

どうなることか……と思っていたら、いきなり4点! 私もその日は調子がよく、「片山一行!」「片山辰巳!」と連呼したものである。

そして10月、上京することになった。せっかち&飛行機嫌いの父は、朝一番の列車で宇和島を出発し、夕方東京に着き、そのまま銀漢亭に行き、みなさんと歓談し、翌日の朝イチには帰郷してしまった。しかし、皆さんに歓迎していただき、父は何より皆さんとの会話のスムーズさに驚いたようだ。たしかに宇和島にはああいう刺激はない。

父の句は毎回そこそこ点を集め、主宰の特選をいただいたこともあった。

<阪西敦子特選>
綿虫やいろはを書いて庭の隅 片山辰巳

<伊藤伊那男特選><小滝肇特選>
店頭に古里があるみかん箱 片山辰巳

たしかに、身びいきかもしれないが、月に1度だけしか俳句をつくらない初心者の句とは思えない。伊那男先生が感慨深げにおっしゃった。

「川柳も俳句も17文字だから、つくってみれば? と言うと、本当につくっちゃうんだもんねえ。かなわないねえ」

さらに2013年7月に東京での川柳大会に上京する際に、銀漢亭にも伺うことになった。このときは川柳大会も開かれた。「片山辰巳を迎えての川柳大会」が開催されたのは7月17日だった。父はまさに水を得た魚! 皆さんとの会話にたいそう感動したようである。

「あの雰囲気はええなあ! みんな、ポンポンと話が弾む。頭の回転がええ!」

(宇和島から銀漢亭にいらした片山辰巳さん。左は水曜名物スタッフの松代展枝さん)

2020年、父は92歳。まだコロナ以前の正月、「今年は銀漢亭に行きたい」という話になっていた。それが閉店となり、とても残念がっていた。

(片山辰巳さんの近影。お元気そう!)

私は2013年4月に愛媛に移住した。最初の頃は上京すると必ず銀漢亭に立ち寄っていたのだが、ここ2、3年はご無沙汰だった。悔やまれてならない。それでも、今は湯島句会をモデルに「松前ネット句会」という超結社句会の世話人のようなことをやっている。

2019年10月、そのオフ会が神保町で開かれ、終了後は銀漢亭に流れた。あれが最後になったかと思うと無念でならないが、あのオフ会がなければ行かないまま閉店だったのだから、集まってくれた皆さんに大感謝である。

私は何十回も銀漢亭に行ったわけではない。しかし1年ぶりにお邪魔しても、まるで昨日も来たように受け入れてくれた。湯島句会は、私の俳句の原点でもある。

私だけでなく、片山辰巳からも「ありがとうございます」。

(写真左が片山一行さん、中央は「銀漢」同人のこしだまほさん)

【執筆者プロフィール】
片山一行(かたやま・いっこう)
1953年2月愛媛県宇和島市生まれ。出版企画編集者。日本詩人クラブ、日本現代詩人会会員。俳人協会会員、現代俳句協会会員。俳誌「銀漢」「麦の会」同人。第36回「麦」新人賞。著作に『職業としての「編集者」』(2015年)など、近刊に詩集『たとえば、海峡の向こう』(2020年)。


  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

  1. 「パリ子育て俳句さんぽ」【9月24日配信分】
  2. ゆる俳句ラジオ「鴨と尺蠖」【第3回】
  3. 神保町に銀漢亭があったころ【第43回】浅川芳直
  4. 神保町に銀漢亭があったころ【第79回】佐怒賀直美
  5. 【クラファン目標達成記念!】神保町に銀漢亭があったころリターンズ…
  6. 引退馬支援と『ウマ娘』と、私が馬を詠む理由
  7. 神保町に銀漢亭があったころ【第118回】前北かおる
  8. 【第7回】ラジオ・ポクリット(ゲスト:篠崎央子さん・飯田冬眞さん…

おすすめ記事

  1. 【#22】鍛冶屋とセイウチ
  2. 月代は月となり灯は窓となる   竹下しづの女【季語=月(秋)】
  3. 森の秀は雲と睦めり花サビタ 林翔【季語=さびたの花(夏)】
  4. 「野崎海芋のたべる歳時記」鶏皮ポン酢
  5. 【冬の季語】炬燵
  6. くしゃみしてポラリス逃す銀河売り 市川桜子【季語=くしゃみ(冬)】
  7. 【春の季語】春灯
  8. 芽柳の傘擦る音の一寸の間 藤松遊子【季語=芽柳(春)】
  9. 【新年の季語】獅子舞
  10. 懐石の芋の葉にのり衣被  平林春子【季語=衣被(秋)】

Pickup記事

  1. デパートの旗ひらひらと火事の雲 横山白虹【季語=火事(冬)】
  2. 糸電話古人の秋につながりぬ 攝津幸彦【季語=秋(秋)】
  3. 火種棒まつ赤に焼けて感謝祭 陽美保子【季語=感謝祭(冬)】
  4. 白魚の目に哀願の二つ三つ 田村葉【季語=白魚(春)】
  5. 冴えかへるもののひとつに夜の鼻 加藤楸邨【季語=冴返る(春)】
  6. 秋虱痼  小津夜景【季語=秋虱(秋)】
  7. 【春の季語】鳥曇
  8. 【冬の季語】白息
  9. 【新年の季語】読初
  10. 【春の季語】二月
PAGE TOP