思ひ出も金魚の水も蒼を帯びぬ　中村草田男【季語＝金魚（夏）】

2025.08.06
ハイクノミカタマンスリーゲスト

思ひ出も金魚の水も蒼を帯びぬ

中村草田男

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　明日は立秋。金魚掬いというと、夏の季語だけれど、私にとっては秋の始めを思い出させる。というのも、小さい頃よく行ったお祭りが九月に行われていたからだ。そのお祭りは祖母の家の近所で行われていた。お昼は、商店街のお祭り、夕方からは、神社の本格的なお祭りに出掛けた。一日で二回もお祭りに遊びに行けるのがとても楽しみだった。商店街のお祭りには、券が必要で、祖母は当日までにたくさんの券を集めてくれていた。焼きトウモロコシや焼きそばなどを買ってきて、家のテーブルに広げて食べる。そして、少し休んでから、神社のお祭りに向かう。初めにするのは、賽銭箱にお金を入れてお願いをすることだ。幼い頃の私は、くじでいいものが当たりますようにと現金なことを祈っていた。境内の階段の両側にびっしりと露店が並ぶ。雑誌の付録やアイドルの写真が景品のくじに、型抜きやベビーカステラ。あれもこれもと見て回る。金魚掬い掬いも必ずあって、家族のなかでは一番母が上手だった。その流れで、金魚だけでなく、昔はカラーひよこも売っていたのよといつも誰かが言った。鶏が苦手な私は、怖がりながらも興味津々にその話を聞いた。

　金魚掬いでもらってきた金魚は、そのまま家で飼った。トロ箱プールにたくさんの金魚と一緒に泳いでいた中から、一匹だけ選ばれて持ち帰られてきた金魚は、水槽に入れてやるとのびのびするように見えた。金魚の動きで水が揺れる。私は、顔を近づけてよく眺めていた気がする。草田男の一句は、そんな幼い頃の自分を思い出させてくれる。懐かしいがゆえに、かえって、はっきりとした輪郭のない思い出。何年分かの夏がまじりあい、子ども時代の夏休みとなっている。何年か前にも金魚を飼ったことがあるが、その時は、熱帯魚店に買いに行った。金魚鉢も買い、砂利も敷き、水温に馴らすためにビニール袋にしばらく金魚を入れておくこともした。ただ、その金魚は、縁日でもらって水槽に入れただけの金魚よりも短命だった。そのことを思うと、不思議な気持ちになる。そして、それと同時に、子ども時代の自分に負けたような妙に嬉しい気持ちになる。

（遠藤容代）

【執筆者プロフィール】
遠藤　容代　（えんどう　ひろよ）
1986年生まれ。「聲」・「天為」所属。句集に『明日の鞄』（ふらんす堂、2025年）。