
紙雛置かるる母の枕元
森羽久衣
この時期、「お雛さまって飾ってる?」という話題が出ますが、皆様いかがですか? 私には姉がいて、彼女が生まれたときに祖父母から送られた内裏雛が幼い頃、リビングルームに飾られました。 ‘お嫁に行く’ときに姉妹それぞれにあった方が良いだろうということなのか、十代になってから、私にもお雛様が一対買い与えられました。こちらは幼い顔つきの立ち雛で、玄関に飾られていたような気がします。幼稚園児のころ、友人の家の「ひなまつりパーティー」に行くと豪華七段飾りがひと間を占めていて、圧倒されつつ、「出すのも仕舞うのも大変そうだなぁ」と感じた思い出も。
残念ながら、私が今住んでいる家にはお雛様を飾る適当な場所が無く、可愛い立ち雛はかれこれ十年以上箱の中。ごめん。実家の母は、娘のお雛様ではなく、十数年前に笠間で見つたというオブジェのようなシックな土雛を玄関のインテリアとして飾っています。姉のお雛様はきっと天袋の中で三十年近く眠りの中かも。うぅ、心が痛い。
掲句は「匙のうら」(北辰社・2023年刊)より。
女性はやはり、自分だけのお雛さまにより愛着を持つのかな、と母の陶製の雛やこの句を見て感じました。お年を召されたお母さまの近くに寄り添うように飾られた紙雛。出し入れが大変な雛人形より簡単に飾れるお雛様を、と作者の羽久衣さんが贈られたのかもしれません。
祖父母や両親に祝ってもらった遠い日、お雛さまを嫁入り道具に生家を離れた日、娘を育てた日々を思いつつ、自分のお雛さまを飾る。大人になって飾るお雛様は女系を中心とした血脈に思いを馳せつつ、自分の来し方を振り返る装置なのかもしれません。〈枕元〉のお雛様は、過ぎし日のひな祭りの記憶に夢の中で誘ってくれそうです。
(白井飛露)

【執筆者プロフィール】
白井飛露(しらい・ひろ) (本名・聡子)
1977年、千葉県野田市生まれ。流山市在住。2010年「かぞの会」参加、2012年「大倉句会」参加。「玉藻」「銀漢」同人。俳人協会会員。
旅行雑誌の編集プロダクション、ゴルフ雑誌出版社勤務などを経て、(株)ウインダムにて展覧会や美術展のPRに携わる。一般社団法人10000日記念日代表。
2025年11月に初句集『輪郭』(朔出版)上梓。