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銀漢を荒野のごとく見はるかす 堀本裕樹【季語=銀漢(秋)】


銀漢を荒野のごとく見はるかす  

堀本裕樹


旧暦の七夕、今年(2020年)はちょっと遅くて本日、8月25日。

一般的には新暦で七夕を祝うことになっているけれど、基本的には梅雨の最中だから、まず星なんてお目にかかることができない。

さて掲句に出てくる「荒野」、「こうや」と堅い響きで読むのがよいか、「あらの」と柔らかい響きで読むのがよいか。

前者なら、硬質な現代詩のようで、作者のまなざしの先にある(必ずしも明るくはない)未来を思う。

後者でいえば、新約聖書には「荒野(あらの)の誘惑」というエピソードがあることを思い出す。

40日にわたってイエスが悪魔から誘惑を受けるというもの(英語では単純に「誘惑されるイエス Temptation of Christ」)で、それゆえに作者が運命の岐路に立たされているようなイメージも浮かぶ。

いずれにしても、「荒野」はただ殺伐としているだけではなく、どこかポジティブな可能性を秘めた、しかし困難でもあるような、そんな道を思わせられる言葉である。

作者にとって、立ち向かうものとは何だったのだろうか。

『熊野曼陀羅』(2012)より。

(堀切克洋)

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