【秋の季語】秋の蝶

【秋の季語=三秋(8月~10月)】秋の蝶

秋蝶」ともいう。

単に「」と呼べば春の季語。夏なら「夏の蝶」、冬ならば「冬の蝶」となる。

秋の蝶が持つイメージは白楽天の次の詩が分かりやすいでしょう。岡村繁『新釈漢文大系98 白氏文集 二 上』(明治書院, 2007)から引用します。

秋蝶

秋花紫蒙蒙 秋蝶黄茸茸
花低蝶新小 飛戯叢西東
日暮涼風來 紛紛花落叢
夜深白露冷 蝶亦死叢中
朝生夕倶化 氣類各相從
不見千年鶴 多栖百丈松

【書き下し】

秋花 紫にして蒙蒙、秋蝶 黄にして茸茸たり。
花低れて蝶新小、飛び戯る叢の西東。
日暮れて涼風来り、紛紛として 花 叢に落つ。
夜深けて白露冷やかに、蝶も亦た叢中に死す。
朝に生じ夕に倶に化す、氣類 各々相從ふ
見ずや千年の鶴、多く百丈の松に栖むを。

【詩意】

秋の花が紫に咲き乱れ、秋の蝶が黄色く群がり飛んでいる。
花は低くたれて蝶は生まれたばかりで小さく、草むらのあちこちに飛び戯れる。
日が暮れて涼風が吹いてくると、入り乱れて草むらに散り落ち、
夜が更けて冷たい白露がおりると、蝶も草むらの中で死んでしまう。
花と蝶とが朝に生じ夕べに一緒に死ぬのは、
同気相応ずる仲間でそれぞれが相従っているからである。
ごらんよ千年も生きる鶴は、
まさしく百丈の松だけに棲んでいるのを。


【秋の蝶(上五)】
秋の蝶かがしの袖にすがりけり 小林一茶
秋の蝶よるさへ崖のこぼれけり 佐野まもる
秋の蝶とまれば遠き帆のごとし 細谷源二
秋の蝶草がくれなる石は冷ゆ 澤田幻詩朗
秋の蝶谷深ければ高うとぶ 阿部みどり女
秋の蝶時間の遅れはじめけり 柏柳明子
秋の蝶石のくぼみの水に来る 大西朋

【秋の蝶(中七)】
江の島や秋の蝶飛ぶ波の上 高浜虚子
高浪をくぐりて秋の蝶黄なり 村上鬼城
身に欠陥あるため秋の蝶疾駆 永田耕衣

【秋の蝶(下五)】
病む日又簾の隙より秋の蝶 夏目漱石
雨やんで庭しづかなり秋の蝶 永井荷風
くくられてゐて犬の追ふ秋の蝶 辻井喜佐栄女
つまづきし石より翔ちぬ秋の蝶 岩瀬正江田
たましひに羽あらばこの秋の蝶 舘野豊
誰が巻かむヴィデオテープよ秋の蝶 小津夜景
列柱のすそに日の射し秋の蝶 村上鞆彦


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