虫売やすぐ死ぬ虫の説明も 西村麒麟【季語=虫売(秋)】


虫売やすぐ死ぬ虫の説明も

西村麒麟


虫売とは虫を美しい籠に入れて売る商売のこと。鈴虫、こおろぎ、松虫など声を愛でる虫を売っていた。虫売は江戸時代にはじまり、戦前までは繁盛していたそうだが、現在では全く見られなくなった。

掲句は、虫売がすぐに死ぬ虫についても律儀に客に説明しているという句。虫売の真面目な性格を感じる。「説明も」の「も」から作者のすこし呆れた心持ちも伝わってきて可笑しい。虫売はどういう感じのひとが多かったのか、現代のわたしたちにはわからないが、先人の虫売の句から想像していく作業も楽しい。

こちらの句は西村麒麟さんの第三句集『鷗』より。同句集には〈虫売の荷が上下して来たりけり〉〈虫売の細字すずむしくさひばり〉〈虫売の使ふきりぎりすの言葉〉がある。どの句もさっぱりとした可笑しさがある。

西村麒麟さんの第一句集『鶉』には〈虫売となつて休んでゐるばかり〉がある。自らが虫売になるところまで発想を飛ばしている。しかも脱力感があってかわいい句だ。この句からはファーストアルバムの思い切りの良さを感じる。対して『鷗』の虫売の句からはサードアルバムの円熟味を感じるのだ。

千野千佳


【執筆者プロフィール】
千野千佳(ちの・ちか)
1984年 新潟県生まれ。
2016年 作句をはじめる。堀本裕樹氏に師事。
2018年 「蒼海」立ち上げとともに入会。
2021年 第2回蒼海賞受賞
2023年 第11回星野立子新人賞受賞


2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓



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