寄り添うて眠るでもなき胡蝶かな 太祇【季語=胡蝶(春)】

島原遊郭ならではの句は、四季折々の風物とともに、花街のざわめきが仔細に描かれる。

  行く女袷着なすや憎きまで

  めでたきも女は髪のあつさ哉

  蚊屋くゞる女は髪に罪深し

  蚊屋つるや夜学を好む真裸

  石榴くふ女かしこうほどきけり

  膳の時はづす遊女や納豆汁

遊女を描写した句は、美しくも哀しく描く。粋な装いもしぐさも、さり気ない風情も見事である。島原を愛し、遊女の魅力を死ぬまで詠み続けた。

  目を明けて聞いて居るなり四方の春

  遅き日を見るや眼鏡をかけながら

  かくぞあれ鮎に砂かむ夜べの月

  移す手に光る蛍や指のまた

  打ちし蚊のひしとこたへぬたなごころ

  行く秋や抱けば身に添ふ膝がしら

  くらがりの柄杓にさはる氷かな

  つめたさに箒捨てけり松の下

五感を研ぎ澄まし感じる四季の移ろいと、遊郭のわび住まい。季語を引き寄せて、自己の内面を反映し描写した句が見事である。

  寄り添うて眠るでもなき胡蝶かな   太祇

掲句の胡蝶は、実際の蝶の描写でもあり、遊女の佇まいでもあるとされる。胡蝶という名の遊女は、何名か記録にあるものの特定はできない。太祇の句で、〈盗まれし牡丹に逢へり明る年〉という句があり、〈牡丹〉もまた遊女の名ではないかとの推測がある。庭で丹念に育てた牡丹が根ごと盗まれ、翌年に別の場所で見つけたという内容ではあるが、客と夜逃げしたはずの遊女と再会したとも読み取れる。

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