土星の輪涼しく見えて婚約す 堀口星眠【季語=涼し(夏)】

一緒に星を見た夜から十数年が経過し、博士は高校時代の後輩女性と婚約した。結婚に伴い、博士の家は建て替えることとなり、新居に天体観測するための屋上を作った。その落成式に姉は招待された。結婚祝いと同窓会を兼ねた「星を見る集い」に姉は、バイオリンを抱えて出かけていった。博士は、音楽も好きで中学時代は姉とバンドを組んでいた。婚約者もまた、星と音楽が好きな女性だったらしい。博士宅屋上の小さな天体観測所にて同級生たちと朝まで盛り上がったようだ。最新式の天体望遠鏡では、はっきりと土星の輪が見えたとか。私は心のどこかでずっと、姉と博士は結婚するものと思っていたので、少し淋しく感じた。

  土星の輪涼しく見えて婚約す   堀口星眠

作者は、大正12年群馬県生まれ。東京帝国大学医学部卒業後、東大付属病院物療内科入局。大学在学中より医学部の友人と俳句を始め、「馬酔木」に投句し水原秋桜子に師事。昭和24年、26歳の頃に医局の友人と共同で軽井沢の別荘を借り、句会を開催。「森の家」と名付けた別荘には、馬酔木同人の大島民郎、長野県出身で医師の相馬遷子、文学研究者の岡谷公二などが集い、馬酔木高原派と呼ばれた。昭和30年、32歳の頃、故郷の安中市にて医院を開業。昭和33年、第一句集『火山灰の道』にて「馬酔木賞」受賞。昭和51年、53歳の時には、『営巣期』で第16回俳人協会賞受賞。5年後の昭和56年、秋桜子の指名で「馬酔木」主宰を継承。しかし、3年後には「橡」を創刊・主宰し、「馬酔木」主宰を辞す。『青葉木菟』『樹の雫』『祇園祭』などの句集出版や、『俳句登山 初めて俳句を作る人に』『俳句お花畑 初心者のための秀句鑑賞』などの出版を経て、平成27年、91歳で逝去。「橡」は、息女の三浦亜紀子氏が主宰を継承。

高原派と呼ばれたため、軽井沢の景色を詠んだ句が有名である。

  啄木鳥や鏡睡らぬ森の家

  男手に住みあらす部屋花野見ゆ

  野鼠も泊る花野のロッジかな

  青鷺と青嶺動かず千曲川

  魚止の滝まで登り秋惜しむ

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