笠原小百合の「競馬的名句アルバム」【第19回】2022年ヴィクトリアマイル ソダシ

この年のヴィクトリアマイルは強豪揃い。18頭中16頭が重賞勝ち馬というメンバーで、ソダシは4番人気に支持されていた。近走の成績が振るわなくとも、この豪華メンバーの中でも、この舞台であれば勝てるのではないか。そう考える競馬ファンも少なくなかっただろう。そして何よりソダシの応援馬券を純粋に購入していたファンが多かった。そんなアイドルホース的な一面もソダシは担っていたのだ。ただ、人気が先行し過ぎているのではないかとソダシの実力に懐疑的な競馬ファンがいたことも確かだった。

ゲートが開き、抜群のスタートを切ったソダシはそのままインコース前目の好位をキープ。最終コーナーを曲がり、他の馬が勝負を仕掛けはじめる中、ソダシは余裕を持って追い出しを開始。残り200メートルを過ぎたところで先頭へ躍り出た。その勢いは衰えることなく、ぐんぐん後続を突き放す。そして、自身の得意の舞台でその力を存分に発揮し、2着に2馬身差をつけてのゴールを果たした。鞍上の吉田隼人騎手の大きなガッツポーズも印象的だった。ソダシはその勝利をもって、人気先行ではない、自身の実力を証明してみせたのだ。

最後に、ソダシは白毛馬でその真っ白な馬体が特徴的だと散々述べてきたが、実は完全に真っ白というわけではない。

ソダシの叔母であるマシュマロの写真が手元にあったので、例としてご覧いただきたい。

毛の薄い箇所、口の周りや脇の下などが実は薄っすらとピンク色をしているのがわかるだろうか。白毛馬の肌の色はピンクであり、その肌の色が現れているのだ。

白牡丹といふといへども紅ほのか  高浜虚子

虚子の名句であるが、実は「白牡丹」のみならず、「白毛馬」にも同様のことが言えるのである。

白牡丹の神聖なる繊細さに通ずるものが白毛馬にもあると、私は思う。

白毛馬を見かけた際にはこの「紅ほのか」にも着目してみてはいかがだろうか。


【執筆者プロフィール】
笠原小百合(かさはら・さゆり)
1984年生まれ、栃木県出身。埼玉県在住。「田」俳句会所属。俳人協会会員。オグリキャップ以来の競馬ファン。引退馬支援活動にも参加する馬好き。ブログ「俳句とみる夢」を運営中。


【笠原小百合の「競馬的名句アルバム」バックナンバー】

【第1回】春泥を突き抜けた黄金の船(2012年皐月賞・ゴールドシップ)
【第2回】馬が馬でなくなるとき(1993年七夕賞・ツインターボ)
【第3回】薔薇の蕾のひらくとき(2010年神戸新聞杯・ローズキングダム)
【第4回】女王の愛した競馬(2010年/2011年エリザベス女王杯・スノーフェアリー)
【第5回】愛された暴君(2013年有馬記念・オルフェーヴル)
【第6回】母の名を継ぐ者(2018年フェブラリーステークス・ノンコノユメ)
【第7回】虹はまだ消えず(2018年 天皇賞(春)・レインボーライン)
【第8回】パドック派の戯言(2003年 天皇賞・秋 シンボリクリスエス)
【第9回】旅路の果て(2006年 朝日杯フューチュリティステークス ドリームジャーニー)
【第10回】母をたずねて(2022年 紫苑ステークス スタニングローズ)
【第11回】馬の名を呼んで(1994年 スプリンターズステークス サクラバクシンオー)
【第12回】或る運命(2003年 府中牝馬ステークス レディパステル&ローズバド)
【第13回】愛の予感(1989年 マイルチャンピオンシップ オグリキャップ)
【第14回】海外からの刺客(2009年 ジャパンカップ コンデュイット)
【第15回】調教師・俳人 武田文吾(1965年 有馬記念 シンザン)
【第16回】雫になる途中(2023年 日経新春杯 ヴェルトライゼンデ)
【第17回】寺山修司と競馬(1977年 京都記念 テンポイント)
【第18回】主役の輝き(2012年 阪神大賞典 オルフェーヴル)


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