毎年ドラマの生まれる日本ダービーだが、私が特に忘れられないのは2018年のワグネリアンが勝ったダービーだろう。
福永祐一騎手が19回目の挑戦にしてダービー初制覇。見事ダービージョッキーとなった。感情を抑えきれずに涙を拭う福永騎手のウイニングランは、見ているこちらも思わず涙ぐんでしまう。父である福永洋一元騎手のことも当然思い起こされる。
そんな感動的な日本ダービーだったが、また違った意味で涙していたのが私の父だった。
父が初めて一口馬主となった馬であるエポカドーロ。実はエポカドーロもこの年の日本ダービーに出走し、2着に敗れたのだ。クラシック一冠目の皐月賞を勝ち、ダービーでは最後まで逃げ粘り、ゴールの直前では力強く前に出る様子もあっただけに、非常に悔しい日本ダービーとして私も忘れられないレースとなった。
しばらくは落ち込んでいた父だが、今ではエポカドーロの子どもたちにも出資し、相変わらず毎週競馬に明け暮れているようだ。エポカドーロの刺繍入りのキャップを被って、仲間たちと競馬で盛り上がっている。娘としては、安堵の気持ちで父の還暦を過ぎての青春を見守っている。
東畑氏の父君はパナマ帽、私の父はエポカドーロのキャップを被って。
一緒にしてしまうのは失礼だとは重々承知しているが、競馬を愛する者という大きな括りで見てみると、不思議な面白さを感じる。
今年の日本ダービーでは、どんなドラマが待ち受けているのだろうか。
【執筆者プロフィール】
笠原小百合(かさはら・さゆり)
1984年生まれ、栃木県出身。埼玉県在住。南風俳句会所属。俳人協会会員。オグリキャップ以来の競馬ファン。引退馬支援活動にも参加する馬好き。ブログ「俳句とみる夢」を運営中。
【笠原小百合の「競馬的名句アルバム」バックナンバー】
【第1回】春泥を突き抜けた黄金の船(2012年皐月賞・ゴールドシップ)
【第2回】馬が馬でなくなるとき(1993年七夕賞・ツインターボ)
【第3回】薔薇の蕾のひらくとき(2010年神戸新聞杯・ローズキングダム)
【第4回】女王の愛した競馬(2010年/2011年エリザベス女王杯・スノーフェアリー)
【第5回】愛された暴君(2013年有馬記念・オルフェーヴル)
【第6回】母の名を継ぐ者(2018年フェブラリーステークス・ノンコノユメ)
【第7回】虹はまだ消えず(2018年 天皇賞(春)・レインボーライン)
【第8回】パドック派の戯言(2003年 天皇賞・秋 シンボリクリスエス)
【第9回】旅路の果て(2006年 朝日杯フューチュリティステークス ドリームジャーニー)
【第10回】母をたずねて(2022年 紫苑ステークス スタニングローズ)
【第11回】馬の名を呼んで(1994年 スプリンターズステークス サクラバクシンオー)
【第12回】或る運命(2003年 府中牝馬ステークス レディパステル&ローズバド)
【第13回】愛の予感(1989年 マイルチャンピオンシップ オグリキャップ)
【第14回】海外からの刺客(2009年 ジャパンカップ コンデュイット)
【第15回】調教師・俳人 武田文吾(1965年 有馬記念 シンザン)
【第16回】雫になる途中(2023年 日経新春杯 ヴェルトライゼンデ)
【第17回】寺山修司と競馬(1977年 京都記念 テンポイント)
【第18回】主役の輝き(2012年 阪神大賞典 オルフェーヴル)
【第19回】白毛馬といふといへども(2022年ヴィクトリアマイル ソダシ)