汗の人ギユーツと眼つむりけり 京極杞陽【季語=汗(夏)】

の人ギユーツと眼つむりけり

京極杞陽きょうごく・きよう

 現実の世界の方のインターハイは、7月27日から8月1日まで、岡山県で開催された。全試合を観ることはできなかったが、「バスケットライブ」の録画配信で決勝戦を視聴した。今年の優勝は鳥取城北高等学校。準優勝は東京の八王子学園八王子高等学校。インターハイは、シード校でも5日間で5試合を勝ち続けての決勝戦だ。高校生は疲れるということがないのだろうか。息もつかせぬ接戦だった。

 前半を優位に進めていた湘北だったが、後半開始10分程で山王が24点リードとなった。しかし、湘北ベンチは諦めない。安西先生の指示通りにオフェンスリバウンドを懸命に奪う花道。赤木はスクリーンをかけて、三井をオープンにさせる。そして、三井は、もうリングしか見えない(新装再編版18巻144ページ)。

汗の人ギユーツと眼つむりけり

 ギューッと目をつむってパッと開くと世界が急に明るくなり、心なしか景色がくっきりして見える。疲れ目解消方法として、ギュッとつむりパッと開くというストレッチがあるくらいだから、気分の問題でなく実際の視界にも変化があるのかもしれない。また、目を閉じると闇がくる。闇は自分自身と向き合う時間だ。だから、心を落ち着けたい時、ぐっと集中したい時、一度目をつむって改めて開くと、見るべきものだけを見ることができる。この句は、どんな汗なのかの説明が一切ない。ただ、暑さだけでなく、緊張を強いられる時、絶対に負けられない時、眼にもギューッと力が入る。

 作者は、1908年、豊岡藩主の14代目当主として生まれた京極杞陽きょうごくきよう。1935年から1936年にかけてのヨーロッパ遊学中、ドイツのベルリンで開かれた高濱虚子たかはまきょしの講演・句会への参加が虚子との出会いとなる。帰国後、虚子との再会をきっかけに門下となった。

 限界ギリギリの三井を支えていたものは、赤木がスクリーンをかけてくれる、宮城がパスをくれる、落ちても花道がリバウンドをとってくれるという信頼。それだけを頼りに放つスリーポイントシュートが連続して決まった湘北は、徐々にリズムを取り戻し、ついに8点差まで詰め寄った。

岸田祐子


【執筆者プロフィール】
岸田祐子(きしだ・ゆうこ)
「ホトトギス」同人。第20回日本伝統俳句協会新人賞受賞。


【岸田祐子のバックナンバー】
〔1〕今日何も彼もなにもかも春らしく 稲畑汀子
〔2〕自転車がひいてよぎりし春日影 波多野爽波
〔3〕朝寝して居り電話又鳴つてをり 星野立子
〔4〕ゆく春や心に秘めて育つもの 松尾いはほ
〔5〕生きてゐて互いに笑ふ涼しさよ 橋爪巨籟
〔6〕みじかくて耳にはさみて洗ひ髪 下田實花
〔7〕彼のことを聞いてみたくて目を薔薇に 今井千鶴子
〔8〕やす扇ばり/\開きあふぎけり 高濱虚子
〔9〕人生の今を華とし風薫る 深見けん二
〔10〕白衣より夕顔の花なほ白し 小松月尚
〔11〕滅却をする心頭のあり涼し 後藤比奈夫
〔12〕暑き日のたゞ五分間十分間 高野素十
〔13〕夏めくや海へ向く窓うち開き 成瀬正俊
〔14〕明日のなきかに短夜を使ひけり 田畑美穂女
〔15〕ゆかた着のとけたる帯を持ちしまま 飯田蛇笏
〔16〕宿よりは遠くはゆかず夜の秋 高橋すゝむ
〔17〕夕立の真只中を走り抜け 高濱年尾
〔18〕苺まづ口にしショートケーキかな 高濱年尾


◆映画版も大ヒットしたバスケットボール漫画の金字塔『SLAM DUNK』。連載当時に発売された通常版(全31巻)のほか、2001年3月から順次発売された「完全版」(全24巻)、2018年に発売された「新装再編版」(全20巻)があります。管理人の推しは、神宗一郎。



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