
駅で飲むコーンスープや十二月
白井飛露
少し遅くなってしまったが12月22日はスープの日。日本スープ協会が制定し日本記念日協会に登録したもの。「いつ(12)もフーフー(22)とスープをいただく」に由来しているのだとか。この句がアップされる12月27日は寒天発祥の日。こちらは伏見寒天記念碑を建てる会が制定したものだ。京都の伏見が寒天発祥の地であることをアピールし、京都市伏見区御駕籠町近辺に記念碑を建て、啓発活動を行いながら寒天の発祥を祝い後世に伝えていくのが目的で、12月27日に制定した理由は長いので割愛。伏見ということが重要らしい。
こうなってくると気になるのが「俳句の日」。こちらも日本記念日協会に登録されていて、上野貴子氏が主宰する「おしゃべりHAIKUの会」が8月19日に制定した。記念日には毎年大会を開いているようで、今年の大会の模様は角川『俳句』10月号に掲載されている。どこかの協会が制定したわけではないのが清々しい。
さて今日紹介する句の作者は一般社団法人10000日記念日の代表理事。10000日を年齢に置き換えると27歳4.5ヶ月になる。成人式を過ぎるとしばらく年齢では派手に祝うことがなくなるが、10000日となれば派手に祝うしかない!20000日、30000日も然り!
駅で飲むコーンスープや十二月
年末進行真っ只中の十二月、出先での打ち合わせをはしごしている。移動時間を考えるととてもゆったりとランチなどというわけにはいかない。当座の空腹をしのぐため、英気を養うため、そして何より打ち合わせ中にお腹が鳴らないよう選んだのはコーンスープ。コーヒーは先程の打ち合わせで飲んだばかりだし、さらに次の打ち合わせ先で供されるかもしれないからだ。
働く身にはそんな鑑賞になるが、句会に向かう時の様子を詠んだと考えても良い。つまり、ある程度どの世代でも自分だけの十二月某日を思い出すことが出来る情景となっている。
缶のコーンスープは美味しい、というだけの句では決してないことを「駅」と「十二月」が語る。「師走」では「走」の一文字が邪魔になり、「極月」ではコーンスープが美味しくなさそう。「十二月」が絶妙なのだ。
堂々たる姿で熱々の缶コーンスープを飲む作者の像が思い浮かぶ。飲み干しつつ、同行者に次の打ち合わせまでのルートを確認するその声まで聞こえてきそうだ。
序文は星野高士さんで、跋文は伊藤伊那男さん。伊那男さんが鬼籍に入られたのはこの句集の刊行翌日であった。
『輪郭』(2025年刊)所収。
(吉田林檎)
【執筆者プロフィール】
吉田林檎(よしだ・りんご)
昭和46年(1971)東京生まれ。平成20年(2008)に西村和子指導の「パラソル句会」に参加して俳句をはじめる。平成22年(2010)「知音」入会。平成25年(2013)「知音」同人、平成27年(2015)第3回星野立子賞新人賞受賞、平成28年(2016)第5回青炎賞(「知音」新人賞)を受賞。俳人協会会員。句集に『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)。
【吉田林檎さんの句集『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)はこちら ↓】

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