一瞬にしてみな遺品雲の峰 櫂未知子【季語=雲の峰(夏)】


一瞬にしてみな遺品雲の峰)

(櫂未知子
第三句集『カムイ』より)

ついに、句集発刊に向けた諸々が完結し、句集の発売日が決定した。そのXデーは3月19日(火)となった。奥付の発行日は、とある別の日(わたしに所縁のある日付)にしてあるのだが、お手に取られた方は確認していただければと思う。今日は、句集発行に至るまでの経緯を辿っていきたいと思う。自分語りになるが、お付き合いいただければと思う。

掲句は、私の師である櫂未知子先生の句を引かせていただいた。
彼女の第三句集『カムイ』のあとがきにはこのようにある。「前の句集を出してから思いのほか長い月日が過ぎた。途中、母の死をきっかけに句稿を何とかまとめたが、その二週間後に東日本大震災が起きてしまった。今思えば、あの震災は自分の作品を再び見つめ直すための厳しい機会だったのかもしれない。」、そう、昨日は東日本大震災から13年だった。そのため、未知子先生のあとがきを思い出して、今回は、句集上梓に向けた話を書こうと思ったのだ。やはり、私の目標として、櫂未知子先生と『カムイ』があるのだと改めて思った。

今回、句集名を『氷湖いま』とした。『カムイ』もそうだが、一目で北海道だと分かる句集名にしたいという思いがあった。
氷湖は、北海道であれば、どこでも見ることが出来る。例えば、網走湖や屈斜路湖、然別湖など。実は、表題句が詠まれた場所はそんな有名な場所ではなく、妻の実家の近くにある剣淵町の桜岡湖である。私の「湖好き」に関しては、以前もセクトポクリットで触れている。せっかくの第一句集、自分の好きなものを句集の題にしたいと考えた。その時、ただの湖ではなく、北海道らしさ満載の「氷湖」にしようと決心した。北海道の今を詰め込んだ句集であるから、「いま」を合わせた。

句集出そうと決めたのは、2022年の12月ごろ。たしか、蝦夷句会の忘年会にて、未知子先生から「北海道新聞俳句賞も取ったわけだし、次はあなたが出す番よ」と言われたことを記憶している。1年間超、準備をしてきたわけだが、句集を編むということはとてつもなく大変だった。句稿の整理から句の並べ替え、章立て、表題句の選出などやることが多く、この生みの苦しみは経験した人にしか分からないのだと思う。ただ、自分の俳句人生の区切りとして、今後へ向けての一歩を踏み出すために、上梓にたどりついてよかったと思う。

句集出版には、多くの人に助けていただいた。上梓に向けて背中を押してくれ、様々なサポートをくださった未知子先生はもちろん、句稿へのアドバイスと跋文を書いていただいた「群青」共同代表の佐藤郁良先生、栞を書いてくださった「雪華」主宰の橋本喜夫先生、句稿整理には、「群青」「滸」の安里琉太さん、「群青」の田中冬生さんにご協力いただいた。皆さんお忙しい中、私のために惜しまず協力をしてくださったことに、深く感謝したいと思う。

そんな多くの方に支えていただいた私の第一句集が、世の中に出て、読者の皆様からどのような評価を得るのか、ワクワクしている。どんな結果であれ、今後の俳句人生の糧になるはずだと確信している。

鈴木総史


【執筆者プロフィール】
鈴木総史(すずき・そうし)
平成8年(1996)東京都生まれ、27歳。
北海道旭川市在住。3月より島根県松江市へ引越予定。
平成27年(2015)3月、「群青」入会。櫂未知子と佐藤郁良に師事。
令和3年(2021)10月、「雪華」入会。
令和4年(2022)、作品集「微熱」にて、第37回北海道新聞俳句賞を受賞。
令和5年(2023)1月より、「雪華」同人。
令和5年(2023)、連作「雨の予感」にて、第11回星野立子新人賞を受賞。
令和6年(2024)3月に、第一句集『氷湖いま』を上梓予定。
現在、「群青」「雪華」同人。俳人協会会員。


2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓


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