コンゲツノハイク【各誌の推薦句】

【読者参加型】コンゲツノハイクを読む【2021年12月分】


【読者参加型】

コンゲツノハイクを読む

【2021年12月分】


ご好評いただいている「コンゲツノハイク」は毎月、各誌から選りすぐりの「今月の推薦句」を(ほぼ)リアルタイムで掲出しています。しかし、句を並べるだけではもったいない!ということで、一句鑑賞の募集をはじめてみました。まだ誰にも知れていない名句を発掘してみませんか? どなたでも応募可能できますので、お気軽にご参加ください。今回は10名の方にご投稿いただきました(初の2ケタ!)。


時鳥次の一声待つ静寂

稲畑廣太郎

「ホトトギス」2021年12月号より

今月も沢山の佳句を読ませていただきました。選ばせていただいたのはこの一句。「ホトトギス」は通巻1500号を迎えられたとのこと。稲畑主宰の御覚悟が伝わってきます。また、上記の背景を知らずに読んだとしても、時鳥の声をもう一度じっくり聴きたいと待つ瞬間を捉えています。(鈴木霞童/「天穹」)


秋深しおしめにシッポ用の穴

福井たんぽぽ

「雪華」2021年12月号より

「おしめ」「シッポ」「穴」一瞬「?」と思うが、直ぐに老犬介護の句と納得。人間同様犬の寿命も伸び、飼うには介護の覚悟が要る。トイレトレーニングが出来た犬でも老犬になれば垂れ流しが日常に。そこで昨今は犬用オムツのお世話になることに。

さて、掲句。深まって行く秋の夜、老いた愛犬のオムツを替えながら、幼犬時代からの共に過ごした日々をしみじみ思い出しているのだろう。犬は人間の4倍の速さで年をとる。これから先どのくらい一緒に過ごせるか。滑稽な表現の中にも、季語の「秋深し」と重畳する「し」の韻にペットロスの不安が感じられる。(種谷良二/「櫟」)


梨食べて今日はじめての声発す

河角京子

「たかんな」2021年11月号より

声を発したのは、誰なのか。ご高齢のお母さま、反抗期の娘さん、無口な旦那さん。あるいは作者ご自身なのかも知れない。いずれにしても、よほど美味しい梨だったのだろう。皮を剥かれて八等分にされた梨を口へ運んで噛めば、しゃくしゃくとした触感から爽やかな甘さが口いっぱいに広がり、溢れた汁は唇から滴り落ちる。その日、一言も喋っていなかったのだ。それが思わず「おいしい」と漏らした。梨が見えて人が見える。とても甘くてジューシーな梨と作者の喜びを、お裾分けしていただいた気がする。(松村史基/「ホトトギス」)


余生かな壜の野菊の水が減る

渡辺悦古

「銀化」2021年12月号より

上五の、かな、勇気がありますね。効いていると思います。散歩の途中で目についたものでしょうか、野菊を摘んできたことも、それを壜にさしたことも、その水の減りに気がつくことも、暮らしに余裕があるから。「余生」という言葉には、若干、ネガテイヴな意味合いが感じられますが、この句では、ああ、これが余生か、と詠嘆する心持ちが、淡々としていて、憧れさえ感じます。(フォーサー涼夏/「田」)


寂しさも虫の闇にも馴れて来ぬ

寿美子

「いには」2021年12月号より

人間生きていれば生老病死必ず訪れ、死ぬ時は必ず一人だ。その寂しさに押し殺されそうになった人もたくさんいるだろう。ただ不思議なもので、その寂しさが日常化すると、次第に薄れてゆき、それが当たり前なものとして生きていく事が出来る。虫の闇に目が慣れてきて、闇がうっすら晴れていくように、また虫の声を愛でることが出来るようになれるのであろう。(琲戸七竈/「森の座」)



巨き鳥かむさるやうに花野暮る

大井さち子

「鷹」2021年12月号より

ひたひた迫る黄昏の趣の、喩えとして心惹かれます。アラビアンナイトのロック鳥を思い描いてしまうと何だか違うようで、そういう鳥ではなくって、淋しい、白鳥のような鳥の巨大なやつが、大地を撫でるように翼下に包み込んでゆく――といったイマージュ。季語〈花野〉の、華美であると同時に寂寞たる気韻をすこぶる活かし得ている、と思われます。一句のうちに濁音が一つもありませんし、調べという点でも按配宜しく成就しているようです。(平野山斗士/「田」)


鍋ごとに違ふ匂ひの芋煮会

景山田歌思

「磁石」2021年11月号より

Wikipediaによれば、芋煮会で調理される芋煮のレシピは地域ごとに異なり、山形県だけでも牛肉醤油味・豚肉醤油味・豚肉味噌味等が存在するという。掲句の芋煮会には複数の地域の出身者が参加しているのだろうか。それとも単に、ある鍋には牛肉を多めに入れたり、別の鍋には醤油を入れすぎたりした結果「違ふ匂ひ」となったのだろうか。私はこれまでに二度、都内での芋煮会に参加したことがあるが、いずれも鍋は一つだった。いつか大鍋がぼんぼんと置かれ、各鍋から違う匂いがしてくるような、大規模な芋煮会に参加してみたい。(西生ゆかり/「街」)



文月来机辺にフェルメールの光

興梠隆

「松の花」2021年11月号より

フェルメールの光だけで、17世紀のオランダを代表する画家ヨハネス・フェルメール。「フェルメールブルー」とも称される青をはじめとする美しい色彩の絵画、数少ない作品を想像します。フェルメールの「水差しを持つ女」にも、「窓辺で手紙を読む女」でも、机辺に描かれたモチーフに、込められているという、ダイイングメッセージ。文月の「光」が差し込む机辺からは、文月の意味・由来・語源のひとつである、7月7日の七夕に詩歌を献じたり、書物を夜風に曝したりする風習を思い浮かべます。この二つの相乗効果から、絵画の中のように、机辺に置かれているであろう、書道の上達を願う手紙や短冊が見えてきます。(野島正則/「青垣」・「平」)


折つて折つて絞る軟膏みんみん蟬

篠崎央子

「磁石」2021年11月号より


顔を真っ赤にして指先にありったけの力をこめて軟膏を絞り出している姿がありありと目に浮かびます。「折つて折つて」と重ねたところに実感があります。そして軟膏を絞りだすことの煩わしさとみんみん蟬の声の暑苦しさとが響き合います。一方、促音ではじまり撥音でおわるリズムの楽しさが見事で、あまり悲壮感は感じません。(蛇足ですが軟膏絞り器という便利なものがあります。(千野千佳/「蒼海」)


水餃子の青の透けゐて夏惜しむ

田中久美子

「橘」2021年11月号より

宇都宮餃子の名店・正嗣のメニューは焼餃子と水餃子のみ。白飯やビールなど他のメニューは一切存在しない。私は大抵「焼3水2」(やきさんすいに)で注文して、焼餃子を食べてから最後に水餃子を楽しむ。焼餃子を食べている間、傍らではもちっとした皮から透けて見える水餃子の青が待ってくれている。その愛しさ、切なさよ。その時の感情をうまく言語化することが出来ずに居たのだが、掲句の「夏惜しむ」はまさにその通り! この季語は私の中では絶対に動きようがない。宇都宮で過ごした高校時代のあの夏へ帰ったような気持になった。(笠原小百合/「田」)


→「コンゲツノハイク」2021年12月分をもっと読む(画像をクリック)


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