暑き日のたゞ五分間十分間 高野素十【季語=暑し(夏)】

暑き日のたゞ五分間十分間

高野素十たかのすじゅう 

 インターハイ東京都予選、男子ベスト4決定戦を観に行った。語れるほど沢山の試合を観てはいないが、高校バスケは大学よりもプロよりも行ったり来たりのスピードが速い。細くて軽い体だからだろうか。去年、いいなと思った選手が今年も出ていて、嬉しい。同じ背番号だった。名前は分からないのだけれど、スリーポイントシュートを何回も決めていた。

 日本のプロバスケットボール、Bリーグは、1クォーター(Q)10分を4回行い、1Qと2Q、3Qと4Qの間に2分間の休憩、2Qと3Qの間には15分のハーフタイムが入る。日本の高校バスケやNBA(アメリカのプロリーグ)の試合もBリーグとほぼ同じだが、高校バスケのハーフタイムは10分と短く、NBAの1Qは12分と少し長い。その他、時間に関するルールは、フロントコートに8秒以内にボールを運ばなければならない、24秒以内にシュートを打たなければならない、ボールを持った状態で5秒間静止してはならない、スローインやフリースローを5秒以内にしなければならないなど1分未満の時間で区切られているものも少なくない。ただし、スラムダンク連載当時と現在とではルールが変わっているところがある。

 身長202cm、体重90kgという恵まれた体格を持つ魚住(うおずみ)(じゅん)は、陵南高校3年生でバスケ部の主将。鳴り物入りで入学したものの、当初は基礎練習にもついてゆけず、体が大きいだけだと周囲から見下されていた。退部を考えていた時、陵南バスケ部監督の田岡に体が大きいことは才能だと言われ、自分の役割を見出す。追いつ追われつの湘北との後半戦、魚住は、感情的なプレーでファウルを取られ、ベンチに下げられる。焦る魚住に、監督の田岡は「ラスト5分になったらお前を投入する… それまで待て」と言う(新装再編版12巻170ページ)。

暑き日のたゞ五分間十分間

 暑い時、特に真夏の真昼間に、時々、時間が止まったように感じることがある。自分は動いているのだけれど、景色が固定され、音が遠くなる。止まっている時間は、ごく短く、五分未満、長くてもせいぜい十分は過ぎない。なぜ、そういう感覚が生まれるのかはわからないが、夏以外の季節で経験したことはない。暑さの中には、時間の感覚を狂わせるなにかがあるのだろうか。

 この句の作者は、高野素(たかのす)(じゅう)山口(やまぐち)誓子(せいし)阿波野(あわの)(せい)()水原(みずはら)(しゅう)桜子(おうし)とともに「ホトトギスの四S」と称された。ちなみに「四S」は「しいえす」と読む。余談だが、私が四Sを知ったとき、真っ先に思い出したのは、漫画『花より男子』の眉目秀麗な四人組のお坊ちゃま集団、花の4人組 (Flower Four)、略してF4(エフ・フォー)。四SとF4に共通点があるのかないのかは、いつか考えてみたい。

 後半の10分41秒時点にベンチに下げられた魚住がコートに戻ったのは、残り時間6分15秒のタイミング。ベンチに下がっていた時間が、長いのか、短いのか、それを私は判断できない。ただ、再びコートに戻った魚住のプレーが、試合の流れを陵南に引き寄せ始める。

岸田祐子


【執筆者プロフィール】
岸田祐子(きしだ・ゆうこ)
「ホトトギス」同人。第20回日本伝統俳句協会新人賞受賞。


【岸田祐子のバックナンバー】
〔1〕今日何も彼もなにもかも春らしく 稲畑汀子
〔2〕自転車がひいてよぎりし春日影 波多野爽波
〔3〕朝寝して居り電話又鳴つてをり 星野立子
〔4〕ゆく春や心に秘めて育つもの 松尾いはほ
〔5〕生きてゐて互いに笑ふ涼しさよ 橋爪巨籟
〔6〕みじかくて耳にはさみて洗ひ髪 下田實花
〔7〕彼のことを聞いてみたくて目を薔薇に 今井千鶴子
〔8〕やす扇ばり/\開きあふぎけり 高濱虚子
〔9〕人生の今を華とし風薫る 深見けん二
〔10〕白衣より夕顔の花なほ白し 小松月尚
〔11〕滅却をする心頭のあり涼し 後藤比奈夫


◆映画版も大ヒットしたバスケットボール漫画の金字塔『SLAM DUNK』。連載当時に発売された通常版(全31巻)のほか、2001年3月から順次発売された「完全版」(全24巻)、2018年に発売された「新装再編版」(全20巻)があります。管理人の推しは、神宗一郎。



関連記事