
暖かや舌に転がす一行詩
稲畑廣太郎
「暖かや」という上五によって、世界は急がず、明るさに包まれた状態で始まります。
その中で「舌に転がす一行詩」と続くとき、詩は紙の上から作者の体へ移動し、体の内側で確かめられているモノとして見えてきます。
「転がす」という措辞には、まだ定まりきらない言葉を、何度も味わい直している動きが感じられます。
俳句を推敲しているのかもしれません。
舌の上で転がされる言葉は、その響きや重さを、身体感覚によって確かめられているのでしょう。
それは、詩を外側から整えるのではなく、自らの内側で育てていく時間です。
芭蕉の「句調はずんば舌頭に千転せよ」(『去来抄』)を思わせるように、言葉は作者の舌の上で幾度も転がされて、そのたびに新しい響きを帯びていきます。
春の暖かさの中で、世界と自分の間に生まれた一行詩を、静かに確かめている。
そのひとときの充足感が、やわらかく伝わってくる一句です。
『ホトトギス』令和八年三月号 所収
(菅谷糸)
【執筆者プロフィール】
菅谷 糸(すがや・いと)
1977年生まれ。東京都在住。「ホトトギス」所属。日本伝統俳句協会会員。

【菅谷糸のバックナンバー】
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