服部崇の「新しい短歌をさがして」

【連載】新しい短歌をさがして【14】服部崇


【連載】
新しい短歌をさがして
【14】

服部崇
(「心の花」同人)


毎月第1日曜日は、歌人・服部崇さんによる「新しい短歌をさがして」。アメリカ、フランス、京都そして台湾へと動きつづける崇さん。日本国内だけではなく、既存の形式にとらわれない世界各地の短歌に思いを馳せてゆく時評/エッセイです。


「フランス短歌」と「台湾歌壇」

7月、フランス在住の工藤貴響さん(2022年度、角川短歌賞受賞)が訪台する機会に、台湾歌壇に参加している日本人の一部の方々とお引き合わせした。工藤貴響さんからは、フランス短歌会のことや、自身の作歌における姿勢などを教えていただいた。台湾歌壇の三宅教子さんからは、「台北歌壇」を創設された呉建堂さんや、「台湾歌壇」の代表をお務めになられていた蔡焜燦さんの様々な逸話を教えていただいた。

また、「フランス短歌2023」(2023年6月)と「台湾歌壇(第37集)」(2023年5月)をお互いに読み合った。それぞれの歌誌からはフランスと台湾の風土の違いが読み取れた。工藤さんはアルプスの麓のグルノーブルを詠んでいる。中村さんは台湾で日本語を教えているときの思いを、堀池さんは台湾で育つお子さんたちのことを、三宅さんはコロナ禍のなか帰国して兄弟にお会いした際のことを詠んでいる。服部は春節の際のことを詠んでいる。

参加してくださった台湾在住の方々からは、「刺激を受けた」、「楽しい時間だった」とお聞きした。こうした場を持つことができて本当によかった。台湾訪問の際にお時間をいただけた工藤さんに感謝したい。

「フランス短歌2023」

  グルノーブル

夕陽(せきよう)をたかく截りだすアルプスのあら膚せまる街の入口         工藤貴響

岩叢の高嶺にありて見下ろしの草原にわが自転車が見ゆ         同上

「台湾歌壇(第37集)」

ネット動画落語ドラマは常備薬消えそうになる言葉を留むる       中村祥子

助詞「に」と「で」違ひの説明すらすらとなれどすらすら生きるは難し  同上

親が子へ日本語継がす補習校気乗らぬ吾子を連れて十年         堀池いず美

次男()を連れて慣れた道行く傍らに長男()の居ぬ寂しさ土曜日の朝      同上

ふるさとへ帰りゆく日のそのために足を鍛へむと今日も励むも      三宅教子

「梅の花」座敷にゆるりと時流れ兄との食事の夢のごと過ぐ       同上

海までの距離をはかりて監獄の横のルートを選ぶ春節          服部崇

かき混ぜるたびにとろりと溶けてゆく目玉の奥のあたりの何か      同上


【「新しい短歌をさがして」バックナンバー】

【13】台湾の学生たちに短歌を語る
【12】旅のうた──『本田稜歌集』(現代短歌文庫、砂子屋書房、2023)
【11】歌集と初出誌における連作の異同──菅原百合絵『たましひの薄衣』(2023、書肆侃侃房)
【10】晩鐘──「『晩鐘』に心寄せて」(致良出版社(台北市)、2021) 
【9】多言語歌集の試み──紺野万里『雪 yuki Snow Sniegs C H eг』(Orbita社, Latvia, 2021)
【8】理性と短歌──中野嘉一 『新短歌の歴史』(昭森社、1967)(2)
【7】新短歌の歴史を覗く──中野嘉一 『新短歌の歴史』(昭森社、1967)
【6】台湾の「日本語人」による短歌──孤蓬万里編著『台湾万葉集』(集英社、1994)
【5】配置の塩梅──武藤義哉『春の幾何学』(ながらみ書房、2022)
【4】海外滞在のもたらす力──大森悦子『青日溜まり』(本阿弥書店、2022)
【3】カリフォルニアの雨──青木泰子『幸いなるかな』(ながらみ書房、2022)
【2】蜃気楼──雁部貞夫『わがヒマラヤ』(青磁社、2019)
【1】新しい短歌をさがして


【執筆者プロフィール】
服部崇(はっとり・たかし)
心の花」所属。居場所が定まらず、あちこちをふらふらしている。パリに住んでいたときには「パリ短歌クラブ」を発足させた。その後、東京、京都と居を移しつつも、2020年まで「パリ短歌」の編集を続けた。歌集『ドードー鳥の骨――巴里歌篇』(2017、ながらみ書房)、第二歌集『新しい生活様式』(2022、ながらみ書房)。

Twitter:@TakashiHattori0

挑発する知の第二歌集!

「栞」より

世界との接し方で言うと、没入し切らず、どこか醒めている。かといって冷笑的ではない。謎を含んだ孤独で内省的な知の手触りがある。 -谷岡亜紀

「新しい生活様式」が、服部さんを媒介として、短歌という詩型にどのように作用するのか注目したい。 -河野美砂子

服部の目が、観察する眼以上の、ユーモアや批評を含んだ挑発的なものであることが窺える。 -島田幸典


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