仮りにだに我名しるせよ常陸帯 松瀬青々【季語=常陸帯(新年)】

仮りにだに我名しるせよ常陸帯  松瀬青々

 〈仮にだに〉とは、「取り敢えず」とか「差し当たって」ぐらいのニュアンスであろう。句の解釈としては、「誰か意中の人がいないのなら、間に合わせでも良いから自分の名前を書いて欲しい。そうすれば、自分はあなたの名前を書くので、神様が結び付けてくれるかもしれない。そんな想いを託した常陸帯だ」という内容になる。〈仮りにだに我名しるせよ〉という命令形の詠み方は平安時代の恋歌を思わせる。実際に常陸帯の神事に帯を供えたわけではないのだが、参加する男性の気持ちに成り代わって詠んだのである。

 掲句を見た時、二十代の終りの頃に流行ったお見合いパーティーのことを思い出した。色々な方式があるのだが、私が参加したのは、男性全員と話をする方式のものだった。受付で貰った番号のテーブルに座っていると五分おきに男性が入れ替わりやってくるので話をする。最終的に一番気に入った男性の名前を書いて受付に提出する。相手も自分の名前を書いていればカップル成立となる。初めて参加した際は、何人もの男性と話しをしたので、誰が誰やら覚えられなかった。ところが、最後にやってきた男性が「もう一度、あなたと話がしたくて来ました。紙には僕の名前を書いてください。私はもうあなたの名前を書きました」と実際に紙を見せて、強くアピールしてきた。私を気に入ってくれたことが嬉しくて言われるがまま彼の名前を書いた。初参加でカップル成立となり、楽しい想い出となった。その男性とは、三ヶ月ほど交際したが価値観が合わず別れた。神様が選んだ恋の相手なら別れることもなかったのかもしれない。

篠崎央子


篠崎央子さんの句集『火の貌』はこちら↓】


【執筆者プロフィール】
篠崎央子(しのざき・ひさこ)
1975年茨城県生まれ。2002年「未来図」入会。2005年朝日俳句新人賞奨励賞受賞。2006年未来図新人賞受賞。2007年「未来図」同人。2018年未来図賞受賞。2021年星野立子新人賞受賞。俳人協会会員。『火の貌』(ふらんす堂、2020年)により第44回俳人協会新人賞。「磁石」同人。



【篠崎央子のバックナンバー】
>>〔196〕初夢で逢ひしを告げず会ひにけり 稲畑汀子
>>〔195〕ひそやかに女とありぬ年忘 松根東洋城
>>〔194〕ある期待真白き毛糸編み継ぐは 菖蒲あや
>>〔193〕綿虫と吾ともろともに抱きしめよ 藺草慶子
>>〔192〕愛人を水鳥にして帰るかな あざ蓉子
>>〔191〕胸中に何の火種ぞ黄落す 手塚美佐
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>>〔188〕虫の夜を眠る乳房を手ぐさにし 山口超心鬼
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>>〔186〕霧まとひをりぬ男も泣きやすし 清水径子
>>〔185〕嘘も厭さよならも厭ひぐらしも 坊城俊樹
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>>〔183〕熱砂駆け行くは恋する者ならん 三好曲
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>>〔181〕彼とあう日まで香水つけっぱなし 鎌倉佐弓
>>〔180〕遠縁のをんなのやうな草いきれ 長谷川双魚
>>〔179〕水母うく微笑はつかのまのもの 柚木紀子
>>〔178〕水飯や黙つて惚れてゐるがよき 吉田汀史
>>〔177〕籐椅子飴色何々婚に関係なし 鈴木榮子
>>〔176〕土星の輪涼しく見えて婚約す 堀口星眠
>>〔175〕死がふたりを分かつまで剝くレタスかな 西原天気
>>〔174〕いじめると陽炎となる妹よ 仁平勝
>>〔173〕寄り添うて眠るでもなき胡蝶かな 太祇
>>〔172〕別々に拾ふタクシー花の雨 岡田史乃
>>〔171〕野遊のしばらく黙りゐる二人 涼野海音
>>〔170〕逢ふたびのミモザの花の遠げむり 後藤比奈夫
>>〔169〕走る走る修二会わが恋ふ御僧も 大石悦子
>>〔168〕薄氷に書いた名を消し書く純愛 高澤晶子
>>〔167〕約束はいつも待つ側春隣 浅川芳直
>>〔166〕葉牡丹に恋が渦巻く金曜日 浜明史
>>〔165〕さつま汁妻と故郷を異にして 右城暮石
>>〔164〕成人の日は恋人の恋人と 如月真菜
>>〔163〕逢はざりしみじかさに松過ぎにけり 上田五千石
>>〔162〕年惜しむ麻美・眞子・晶子・亜美・マユミ 北大路翼
>>〔161〕ゆず湯の柚子つついて恋を今している 越智友亮
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>>〔159〕わが子宮めくや枯野のヘリポート 柴田千晶
>>〔158〕冬麗や泣かれて抱けば腹突かれ 黒岩徳将
>>〔157〕ひょんの笛ことばにしては愛逃ぐる 池冨芳子
>>〔156〕温め酒女友達なる我に 阪西敦子
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