水涸れて腫れるやうなる鳥の足 金光舞【季語=水涸る(冬)】

水涸れて腫れるやうなる鳥の足

金光舞


作者は2006年生まれ。記事公開時点で高校生である。俳句の他に短歌、現代詩の分野でも存在感を示している。

掲句は梓54号、中高生俳句@梓欄より。刺すような寒さの中に立ち尽くす鳥。小さなものを見つめているうちに、それがみるみる膨らんでいくような感覚は誰しも経験があるだろう。作者は、鳥の、乾いてざらざらした足の節々を観察しているうちに、まるで腫れているようだという感動をしたのである。「脚」という漢字を選ばずに表記したことで、事実の描写を一歩離れ、より肉感的な叫びのような痛みが伝わってくる。独特な文体も作品に帯びた熱をより高めている。

さて、作者は中学生から文芸部に所属している。昨夏は俳句甲子園に出場し、牧水・短歌甲子園にも出場。弁論術で会場を魅了し、パフォーマンス賞を受賞した。他にも入賞多数で、現代詩手帖に作品がとりあげられるなどと幅広く活躍中である。ちなみに私も同窓で、彼女が入部してきた瞬間は未だ記憶に新しい。俳句甲子園に出場しているような高校生は大方が部活で俳句に取り組んでいるが、俳句以外の文芸ジャンルにも併せて取り組んでいる学校も多い。文芸部誌をひらけば、それぞれのメンバーが俳句、短歌、川柳、小説、詩、エッセイなどと縦横無尽な活躍をしている様子が伺える。参考までに、昨夏の俳句甲子園と短歌甲子園(全国高校生短歌大会、牧水・短歌甲子園、万葉短歌バトルのうちの1大会以上)両方で全国大会に出場した学校は4校(興南、灘、尚学館、星野)である。
 
常々、さまざまなジャンルに取り組む複合型文芸部という存在には文芸への入口として唯一無二の面白さがあると思っている。志を同じくする仲間の存在は当然何物にも代え難い財産である(あらゆる集団に言えることであるが)上に、文芸部ではまずさまざまな表現の形式に取り組んでみて、自分が何が好きで、何を伝えていきたいのかということを絞り込む。表現したい物事と表現形式の相性を体感で理解しながら書いていくと、自分自身への理解も深まる。定期的に苦手な形式にも向き合う機会があるのも長い目で見れば魅力的だ。その後描きたい世界が変わったときも、どのような形態で表現すれば良いかの検討がつくことは、創作において一生ものの強みになるだろう。

反面、入部した瞬間から短詩に触れることになり、馴染みがなかった人にとっては混乱を招くこともある。表現手段を選ぶことができるようになる前に、全ての詩歌の特徴が混じり合ったものを生み出す時間も生まれていく。例えば、「俳句はモノ、短歌はココロ」「こういう言葉を使って書けばまとまりやすい」などと最初から伝えれば多少の整理はつくかもしれないが、最終的に良いものが生まれやすくなるかと問うと疑問が残る。各地の顧問や指導者も頭を悩ませているだろうし、最終的にケースバイケースとしか言いようはないものの、個人的には、書きたいことがあるうちはのびのび好きに書き続けて良い気がしている。勝敗や良し悪しがどうしてもついて回るのが厄介なことではあるが。

文芸部を卒業した高校生が、後の人生で書くことを続けるとは限らない。筆を置く人の方が多いかもしれない。私の友人にも創作を辞めた人もいれば、専門にする表現形式を大きく絞って向き合っている人もいる。書くことや評価が伴うことの苦しさの側面もわかるからこそ、書き続けて欲しいと引き留めることはしたくないし、その権利は誰にもないと思う。ただ、掲句の金光さんをはじめとする、友人諸氏の作品を読み続けられたら幸せだろうな、と夢想している。

私は今手元に俳句と短歌を残しているものの、10年後にどうなっているかを断言することは難しい。それでもたくさんの手段を選んだり、捨てたり、選びなおしたりしながら模索していきたい。

(野城知里)


【執筆者プロフィール】
野城知里(のしろ・ちさと)
2002年埼玉生。梓俳句会会員、未来短歌会会員。第12回星野立子新人賞、第70回角川俳句賞佳作。


2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓



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