ゆく春や心に秘めて育つもの
松尾いはほ
「三井寿の復帰後の成長や、流川楓が力をつけていく姿に重なる。試合中ではなく、その裏での努力や心の中の変化を感じさせる。」(そーたろーさん)
わーい! 第4回で取り上げた〈行く春や心に秘めて育つもの〉の別視点解釈。同じ句をそれぞれの視点で解釈するのって楽しすぎ。こういうのやりたかったのでめちゃめちゃ嬉しいです。
確かに、この句は試合中のことでなく、三井や流川の成長に重ねるとぐっとくるものがあります。特に「心に秘めて」という言葉に「その裏での努力や心の中の変化」が溢れていますし、特定の場面ということではなく、スラムダンク全体を貫くマインドとしても読めるなあと思いました。
実は、つい先日、平塚市にある平塚総合体育館(トッケイセキュリティ体育館)に行ってきました。ここは、インターハイ神奈川県予選の最後の一枠を決める試合、湘北VS陵南の試合をした体育館のモデルになった場所です。はい、聖地巡礼です。もちろん、三井がヘロヘロになってポカリスエットを飲んだ階段で私もポカリスエットを飲んできました。「くそ……」「なぜオレはあんなムダな時間を……」という後悔のシーンです(新装再編版13巻115ページ)。この思いがあったからこそ、山王戦での「もうオレには リングしか見えねえ」に繋がってゆくのでしょう(新装再編版18巻144ページ)。まさに「心に秘めて育つもの」です。
流川の方は、やっぱりアメリカ行きを意識し出した頃から、「心の中の変化」があった感じがします。それまでは、ただバスケが好きで負けず嫌いでみたいなことが強かったけれど、「もっと上手くなるためにアメリカに行く」とか、「日本一の高校生になる」という具体的な目標ができてからの流川は凄みが増しました。安西先生から、アメリカ留学より先にまず日本一になるように諭された流川、陵南の仙道に1オン1を挑んだ流川。そういった一つ一つの出来事が、山王戦で流川の選択肢の中にパスが加わったことに繋がったのでしょう(新装再編版14巻87ページ・19巻92〜131)。この辺りの流川がぐんぐん力をつけてゆく様は圧巻です。特に、流川は無口であまり自分の気持ちを語ることがないので、「心に秘めて育つもの」そのもの。そーたろーさんの解釈をきっかけに、また漫画を読み返して目頭を熱くしました。
そーたろーさん、素敵な解釈をありがとうございました!
(岸田祐子)
【執筆者プロフィール】
岸田祐子(きしだ・ゆうこ)
「ホトトギス」同人。第20回日本伝統俳句協会新人賞受賞。
【岸田祐子のバックナンバー】
〔1〕今日何も彼もなにもかも春らしく 稲畑汀子
〔2〕自転車がひいてよぎりし春日影 波多野爽波
〔3〕朝寝して居り電話又鳴つてをり 星野立子
〔4〕ゆく春や心に秘めて育つもの 松尾いはほ
〔5〕生きてゐて互いに笑ふ涼しさよ 橋爪巨籟
〔6〕みじかくて耳にはさみて洗ひ髪 下田實花
〔7〕彼のことを聞いてみたくて目を薔薇に 今井千鶴子
〔8〕やす扇ばり/\開きあふぎけり 高濱虚子
〔9〕人生の今を華とし風薫る 深見けん二
〔10〕白衣より夕顔の花なほ白し 小松月尚
〔11〕滅却をする心頭のあり涼し 後藤比奈夫
〔12〕暑き日のたゞ五分間十分間 高野素十
〔13〕夏めくや海へ向く窓うち開き 成瀬正俊
〔14〕明日のなきかに短夜を使ひけり 田畑美穂女
〔15〕ゆかた着のとけたる帯を持ちしまま 飯田蛇笏
〔16〕宿よりは遠くはゆかず夜の秋 高橋すゝむ
〔17〕夕立の真只中を走り抜け 高濱年尾
〔18〕苺まづ口にしショートケーキかな 高濱年尾
〔19〕汗の人ギユーツと眼つむりけり 京極杞陽
〔20〕冷汗もかき本当の汗もかく 後藤立夫
〔21〕ここも又好きな景色に秋の海 稲畑汀子
〔22〕優曇華や昨日の如き熱の中 石田波郷
◆映画版も大ヒットしたバスケットボール漫画の金字塔『SLAM DUNK』。連載当時に発売された通常版(全31巻)のほか、2001年3月から順次発売された「完全版」(全24巻)、2018年に発売された「新装再編版」(全20巻)があります。管理人の推しは、神宗一郎。