
焚火する声が大きくなつてゆく
廣瀬悦哉
テレワークの作業BGMは仕事の内容に合わせて選ぶ。余裕がある時は録画の消化やお気に入りのYouTubeチャンネル。しばらくは「ゆる言語学ラジオ」一択だったが最近は「積読チャンネル」も選びがちになっている。集中したい時はカフェ用のジャズ。ポップスだと歌が気になってしまうので作業の時に聞き流す時にはあまり選ばない。
そして最も集中力を要する時は「情報を遮断したい」「少し音が欲しい」を同時に実現してくれている焚火の音。再生開始時には火が小さいのだが、気が付けば大きな薪が火に包まれている。このBGMの時は極度に集中しているのでどのように火が育っていくのかを見届けたことはあまりない。数字の仕事のことが多い。
焚火する声が大きくなつてゆく
最初は小さな焚火の火も、薪をくべるうちにだんだん大きくなってゆく。それに従うように、焚火を囲む人の声も次第におおきくなってきた。火も声もこれからまだまだ大きくなってゆくのだろう。
火が育ち、場が盛り上がっていく様子を、焚火を囲む人たちの声に託して描いた。「大きくなつてゆく」はまだ小声だったそれまでの時間と大きくなっていくこれからの時間をそれぞれ感じさせる。
生活圏で焚火を見ることはかなり稀になってきた。まして自分がするには、一体どこに確認をとれば良いのかすら見当がつかない。屋外でじっくり見ることができる火はどんど焼やバーベーキュー、キャンプファイヤーといったところか。
「たきび」が小学校の音楽の教科書に掲載されたときには消防署から「防火教育上いかがなものか」というクレームが入ったが、挿絵に付添いの大人と水の入ったバケツを描くことで乗り切ったという※。
家庭ごみの自宅焼却が原則禁止になってからはいよいよ教科書に載らなくなってしまったので、「たきび」という概念も危機に瀕しているのかもしれない。
高校の頃までは学校のゴミも校舎裏の焼却炉で焼いていた。ゴミを出しに行くと担当職員の方に「缶が入ってるぞ!」と叱られたものだ。
「たきび」の作詞は日野市で後半生を過した詩人・巽聖歌(たつみせいか 1905~73)。掲句の作者が日野市在住であることは後から気づいた全くの偶然である。
除夜の鐘を打つために順番を待っていた時、焚火は暖をとるのに大いに役に立った。火はあたたかい、ということに改めて気づく。炎の揺れを見ることは波音を聞くのと同じような心の浄化作用があるに違いない。
『里山』(2022年刊)所収。
※教科書のエピソードは下記の情報を参考にしました。
https://www.city.hino.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/024/157/rekimin138.pdf
(吉田林檎)
【執筆者プロフィール】
吉田林檎(よしだ・りんご)
昭和46年(1971)東京生まれ。平成20年(2008)に西村和子指導の「パラソル句会」に参加して俳句をはじめる。平成22年(2010)「知音」入会。平成25年(2013)「知音」同人、平成27年(2015)第3回星野立子賞新人賞受賞、平成28年(2016)第5回青炎賞(「知音」新人賞)を受賞。俳人協会会員。句集に『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)。
【吉田林檎さんの句集『スカラ座』(ふらんす堂、2019年)はこちら ↓】

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