十二月うしろの正面山の神
成田千空
草田男に愛妻俳句がごまんとあるように、千空も多くの愛妻俳句を詠んでいる。千空にとってその深い恩愛の対象として、市子夫人という存在は至極大きく、それは、「炎天の空へ吾妻の女体恋ふ」「妻恋し炎天の岩石もて撃ち」といった、草田男特有のあまりにも直情的でエロチズム的な激しい妻恋というよりかは、一つの生活として欠くことの出来ない、愛惜のまなざしとも言うべき愛情相として千空俳句の中で表現されている。
また、千空が愛妻俳句を詠んだ時ににわかに顕れている女性・母性というものは、青春の挫折と戦争という地獄を目の当たりにした千空にとっての風土のゆるされと同質のものであり、どんな条件下においても自分を受け止めてくれる無償の愛と包容力がその根底には存在しているのである。
今回は試みとして、第一句集『白光』から最後の句集である第六句集『十方吟』までの間で、妻を詠んだ句を一挙に抜き出してみたいと思う。
そこに、清貧を一緒に耐え忍んだ若々しい妻への愛惜から、円熟期を経て、最晩年の自在味を帯びた恩愛への移り変わりを垣間見ることが出来るであろう。
『地霊』(昭和16年~昭和46年・千空20歳~50歳)
妻の眉目春の竈は火を得たり
妻ありき筍の青水に浸り
妻が病む夏俎板に微塵の疵
燈心草間借り一と間を妻と分かつ
寒星明暗わが身のなかに眠る妻
吹き抜ける落葉の太虚妻らの旅
蛇口より凍る夜の妻しんとして
『人日』(昭和47年~昭和57年・千空51歳~61歳)
妻とゐて螢火の闇濃かりけり
妻が手に夏大根の抜き身はや
まるめろの黄に添ふ黄の葉妻癒えよ
露滴々妻の痛みを身のほとり
大雪の夜は森のごと熟睡妻
夏柑にみどりの小星妻癒えよ
雲の上の秋空深く妻を祷る
『天門』(昭和58年~昭和63年・千空62歳~67歳)
きさらぎの雪の羽毛を被て妻よ
さくら餅わが友はまた妻の友
女房や湯気の匂ひの年の暮
『白光』(平成元年~平成6年・千空68歳~73歳)
古妻にをみなの力真鱈劈く
梅咲いて山妻にまだ糸切歯
鏡餅妻に安眠あらしめよ
夏掛の山繭いろに熟睡妻
妻の水屋人参太く充血す
乾拭きのせつせと妻や息白し
妻が辺のちび鉛筆や雪の果
妻老いて母の如しやとろろ汁
『忘年』(平成7年~平成11年・千空74歳~78歳)
白障子妻より吾は早起きに
生誕の二月や妻に舞ふ鷗
新茶淹れ妙齢のごと妻の指
貝焼味噌とろりと一夫一妻かな
夕星や妻が手塩の鮭の鮓
『十方吟』(平成12年~平成18年・千空79歳~85歳)
初春の白き髪梳く吾妻はや
指の箸掌の皿妻が蕗の味噌
下ろしたての妻の白靴鳩のやう
太陽のやうなストーブ疾む妻に
菊ほぐし馥郁と妻ゐたりけり
氷頭膾老妻にして指多感
我は沼妻は湖夏ふかき
針孔に糸通して妻へ良夜なり
わが酒をすこし妻のみ十二月
一粒の妻の神薬秋澄めり
日も春も鳩の喉ごゑ妻のこゑ
おそるべき妻の嗅覚万愚節
方寸の貝雛老いし妻の雛
☆
千空と市子夫人の馴れ初めはお見合いであった。千空が30歳、市子夫人が24歳の時であった。お見合い当日は、強烈な吹雪で町中の灯が消え、真っ暗闇の中、蝋燭を灯してのお見合いであった。千空は当時を以下のように回想する。
「草田男先生はたしか十数回見合いをしたそうですが、私もほぼ同数のものぐさ太郎でした。見合いの最中に電気が消えて、私は『古事記』のイザナギとイザナミの話をしました。相手は兄がフィリピンで戦死をした話をしました。私はどうしてもこの人と結婚しなければならない義務感のようなものが心に湧いて、イザナギのように積極的になりました」。
イザナギとイザナミの話と言えば、筆者が2023年7月25日に「ハイクノミカタ」で取り上げた草田男の一句、「めぐりあひやその虹七色七代まで」が真っ先に思い浮かぶ。
そちらの「ハイクノミカタ」にも詳しいが、この句は「中村直子の霊前に捧ぐ」という前書があり、草田男の妻・直子夫人が急逝されたおよそ一年後に詠まれた句であり、草田男による直子夫人の鎮魂の句であると言って良い。
句中の「七代」とは「神代七代」の「七代」の事であり、第一世代の国之常立神から、第七世代の伊邪那岐神と伊邪那美神に至るまでを指す。伊邪那岐神は国生みの前に、「然者、吾と汝と是の天之御柱を行きめぐり逢ひて、みとのまぐはひ為む。」と言い、伊邪那岐神は左回りに伊邪那美神は右回りに天の御柱の周囲を巡り、そうしてお互い出逢った所で、国生みを始めるという逸話がある神である。
草田男の句の上五の「めぐりあひや」という措辞には、前述の伊邪那岐神と伊邪那美神の天の御柱でのめぐり逢いを踏まえつつ、十回以上のお見合いを経てようやくめぐり逢った直子夫人との出逢いに思いを馳せているのであるが、千空も市子夫人とのお見合いの席で、このめぐり逢いの逸話の事でも話したのであろうか。
草田男の場合は、直子夫人との別れの際にこのイザナギとイザナミの話を題材にして一句を成し、千空の場合は、市子夫人との出会いの際に、このイザナギとイザナミの話を題材にして市子夫人を口説き落としたというのは、興味深い偶然であろうか、それとも運命の悪戯であろうか。
☆
その後、昭和26年4月に結婚した千空と市子夫人だが、二人の生活はまさに前途多難であった。千空は当時書店を営んでいたが、間口一間半の小さな書店であり、収入も不安定。一俳句青年に商才があるわけでなし、書店に置く本を仕入れる元手がないため、街の大きな書店から分けてもらいながら、なんとか生活のための収入を得ていた。
ある時、市子夫人が今月の生活費は大丈夫かと千空に聞くと、「お前は金の話ばかりするようになった」と千空は声を荒げだした。市子夫人はすかさず千空の腕を掴み、「私が一度だって靴や着物が欲しいと言ったことがありますか」と泣きながら訴えかけると、千空はしまったという表情で黙ってしまったという事もあったという。
市子夫人は当時の生活をこう振り返る。
「家の横に井戸と簡単な流しがあり、暗くなるとロウソクを立てて炊事をしました。店の奥に六畳ほどの部屋があり、菓子屋を営む大家さんの住まいと襖一枚隔てて続いていました。唯一の明かり窓からは障子越しに雨雪が吹き込みました。井戸の扱いに慣れずに重い釣瓶を滑車から外して何度も助けを求めたこと、厳冬の外厠の辛さは忘れられません」
しかし、そんな極貧の中にも、純真で愛情のあるくらしが二人の中にはあった。千空は「耐へよとや真冬一と間に塩と綿」という一句の自解をこう誌している。
「将来性があるのかわからない俳句青年に、大事な娘を上げる親の気持は、嫁入り道具に感じられました。当時としては高価らしい桐のタンスや黒塗りの鏡台や真新しい重ね布団やその他こまごました物が、借家二た間を満たしたのですが、私の方で備えたものは大きなテーブルと蚊帳くらいでした。テーブルは食卓と文机を兼ねたもので、今も健在です。俳句友達が来ると、このテーブルで句会をやったり、酒盛りをしました。どこの家でも耐乏生活を強いられた時代ですが、嫁さんは工面して来客をもてなしてくれました。二人になるとときどき諍いをしましたが、俳人はそれすら俳句のタネにしてしまいました。〈ある日良妻ある日悪妻行々子〉〈堅炭砕く妻の本音ときこえたり〉〈所詮business薪雑棒を割りとばし〉。しかし私たちの生活には塩の純真と綿の愛情がありました」。
市子夫人も、「千空は生活の不満を一切口にせず、『米と味噌があれば貧乏とはいわない』と話していました」。「戦時中の耐乏生活を考えればどんなことでも我慢できると思ったものでしたが、人は生活が豊かになると忘れがちです。最初は好きも嫌いもなく夫婦となり生活の苦労もありましたが、最後まで連れ添ったのも縁というものでしょう。私は千空の人間性に共感したから生活が続いたのだと思っています」と語っており、二人が如何にお互いを信頼し合い、助け合いながら耐乏生活をしていたかが分かる。
また、上記の句「妻の眉目春の竈は火を得たり」に回想を交えながらも市子夫人は以下のように評している。
「昭和26年に二人が新婚生活を始めた時の竈は七輪だった。埃まみれだった七輪を綺麗に掃除して使った。使わなくなった割箸などを火種にして火をつけ、団扇でぱたぱた煽ぐ。それでも『火を得たり』に新生活への喜びが籠もる」。
こうして、青春の挫折を経験した俳句青年のこころ癒した風土という許されは、耐乏生活を通して次第に市子夫人の母性と磅礴してゆくのである。
☆
そんな千空と市子夫人の夫婦の歩みは、50年という歳月を経て、掲句のような和やかな情感に達している。掲句は第六句集『十方吟』に収録。一見妻の事を詠んでいるよう見えないが、明らかに愛妻俳句と言って良い句だろう。
俵万智に、「万智ちゃんがほしいと言われ心だけついてきたい花いちもんめ」という一首があるが、掲句の中七も子供遊びである「かごめかごめ」をモチーフにしていることは言うまでもない。
俵万智の歌では、プロポーズしてくれた男性の「万智ちゃんがほしい」という言葉によって自分の幼い頃の思い出と現在の状況とがオーバーラップし、あの頃一緒に花いちもんめをしていた初恋の相手が忘れられないのかもしれない、という想像を読者に生み出す効果が「花いちもんめ」という言葉にはあるが、千空の句の「うしろの正面」にも同様の効果生み出されているだろう。
横澤放川は掲句を「うしろの正面にいてほしかった少女は、いまやなくてかなわぬ山の神となって、そのままにうしろの正面にいる」と評している。「十二月」という自然が枯れ切って野も山も蕭条とした世界に、唯一つうしろの正面にいてくれているのは山の神であり、あの頃後ろの正面にいて欲しかった少女であり、それこそがまさに50年という歳月を通して千空が信頼し尽くした市子夫人という存在なのであった。
ここにもまた、風土という許されと市子夫人の母性との磅礴が見られるのである。
☆
最後にではあるが、市子夫人のこんな文章でこの稿を閉じたいと思う。
「千空と結婚した昭和26年、草田男先生が初めて五所川原にお見えになるということで、私も千空について駅までお迎えにまいりました。先生は長身の千空を先立たせ、私と肩を並べて歩かれながら、こんなことを言われました。
『俳人と一緒になられた方は大変ご苦労が多いことですが、千空さんをどうかよろしくお願いします』
私は俳人がどういうものかも知らず、ただ『わかりました』とお答えするばかりでした。
とにかく千空の一生は俳句の道一筋に貫き通した生涯でした。」
(北杜駿)
【執筆者プロフィール】
北杜駿(ほくと・しゅん)
1989年生まれ。千葉県出身。現在は山梨県在住。2019年「森の座」入会、横澤放川に師事。2022年星野立子新人賞受賞。2023年森の座新人賞受賞。「森の座」同人。
Email: shun.hokuto@outlook.com
【北杜駿さんの自選10句】
常足のその一歩づつ秋澄めり
沸りたる薬罐の悲鳴夜のいとど
つづれさせ鳴かせて闇の鎮まれる
羊水の中にあるやの望の夜
秋高し牛の大尿とめどなし
ねんごろに浮ぶ白雲野分あと
深夜の授乳羽包むやうに秋燈
まづ声が母になる妻花八ツ手
昏々と牧場や北風の底うなり
地吹雪の掌やつるはしのまめひとつ
2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓
【2023年12月・2024年1月の火曜日☆土井探花のバックナンバー】
>>〔1〕忘年会みんなで逃がす青い鳥 塩見恵介
>>〔2〕古暦金本選手ありがたう 小川軽舟
>>〔3〕枇杷の花ふつうの未来だといいな 越智友亮
【2023年11月・12月の水曜日☆北杜駿のバックナンバー】
>>〔9〕静臥ただ落葉降りつぐ音ばかり 成田千空
>>〔10〕綿虫や母あるかぎり死は難し 成田千空
>>〔11〕仰向けに冬川流れ無一文 成田千空
>>〔12〕主よ人は木の髄を切る寒い朝 成田千空
>>〔13〕白鳥の花の身又の日はありや 成田千空
>>〔14〕雀来て紅梅はまだこどもの木 成田千空
【2023年12月・2024年1月の木曜日☆浅川芳直のバックナンバー】
>>〔1〕霜柱五分その下の固き土 田尾紅葉子
>>〔2〕凍る夜の大姿見は灯を映す 一力五郎
【2023年10・11月の火曜日☆西生ゆかりのバックナンバー】
>>〔1〕猫と狆と狆が椎茸ふみあらす 島津亮
>>〔2〕赤福のたひらなへらもあたたかし 杉山久子
>>〔3〕五つずつ配れば四つ余る梨 箱森裕美
>>〔4〕湯の中にパスタのひらく花曇 森賀まり
>>〔5〕しやぼんだま死後は鏡の無き世界 佐々木啄実
>>〔6〕待春やうどんに絡む卵の黄 杉山久子
>>〔7〕もし呼んでよいなら桐の花を呼ぶ 高梨章
>>〔8〕或るときのたつた一つの干葡萄 阿部青鞋
>>〔9〕若き日の映画も見たりして二日 大牧広
【2023年10・11月の木曜日☆野名紅里のバックナンバー】
>>〔1〕黒岩さんと呼べば秋気のひとしきり 歌代美遥
>>〔2〕ロボットの手を拭いてやる秋灯下 杉山久子
>>〔3〕秋・紅茶・鳥はきよとんと幸福に 上田信治
>>〔4〕秋うらら他人が見てゐて樹が抱けぬ 小池康生
>>〔5〕縄跳をもつて大縄跳へ入る 小鳥遊五月
>>〔6〕裸木となりても鳥を匿へり 岡田由季
>>〔7〕水吸うて新聞あをし花八ツ手 森賀まり
>>〔8〕雪の速さで降りてゆくエレベーター 正木ゆう子
>>〔9〕死も佳さそう黒豆じっくり煮るも佳し 池田澄子
【2023年9・10月の水曜日☆伊藤幹哲のバックナンバー】
>>〔1〕暮るるほど湖みえてくる白露かな 根岸善雄
>>〔2〕雨だれを聴きて信濃の濁り酒 德田千鶴子
>>〔3〕雨聴いて一つ灯に寄る今宵かな 村上鬼城
>>〔4〕旅いつも雲に抜かれて大花野 岩田奎
>>〔5〕背広よりニットに移す赤い羽根 野中亮介
>>〔6〕秋草の揺れの移れる体かな 涼野海音
>>〔7〕横顔は子規に若くなしラフランス 広渡敬雄
>>〔8〕萩にふり芒にそそぐ雨とこそ 久保田万太郎
【2023年8・9月の火曜日☆吉田哲二のバックナンバー】
>>〔1〕中干しの稲に力を雲の峰 本宮哲郎
>>〔2〕裸子の尻の青あざまてまてまて 小島健
>>〔3〕起座し得て爽涼の風背を渡る 肥田埜勝美
>>〔4〕鵙の朝肋あはれにかき抱く 石田波郷
>>〔5〕たべ飽きてとんとん歩く鴉の子 高野素十
>>〔6〕葛咲くや嬬恋村の字いくつ 石田波郷
>>〔7〕秋風や眼中のもの皆俳句 高浜虚子
>>〔8〕なきがらや秋風かよふ鼻の穴 飯田蛇笏
>>〔9〕百方に借あるごとし秋の暮 石塚友二
【2023年8月の木曜日☆宮本佳世乃のバックナンバー】
>>〔1〕妹は滝の扉を恣 小山玄紀
>>〔2〕すきとおるそこは太鼓をたたいてとおる 阿部完市
>>〔3〕葛の花来るなと言つたではないか 飯島晴子
>>〔4〕さういへばもう秋か風吹きにけり 今井杏太郎
>>〔5〕夏が淋しいジャングルジムを揺らす 五十嵐秀彦
>>〔6〕蟷螂にコップ被せて閉じ込むる 藤田哲史
>>〔7〕菊食うて夜といふなめらかな川 飯田晴
>>〔8〕片足はみづうみに立ち秋の人 藤本夕衣
>>〔9〕逢いたいと書いてはならぬ月と書く 池田澄子
【2023年7月の火曜日☆北杜駿のバックナンバー】
>>〔5〕「我が毒」ひとが薄めて名薬梅雨永し 中村草田男
>>〔6〕白夜の忠犬百骸挙げて石に近み 中村草田男
>>〔7〕折々己れにおどろく噴水時の中 中村草田男
>>〔8〕めぐりあひやその虹七色七代まで 中村草田男
【2023年7月の水曜日☆小滝肇のバックナンバー】
>>〔5〕数と俳句(一)
>>〔6〕数と俳句(二)
>>〔7〕数と俳句(三)
>>〔8〕数と俳句(四)
【2023年7月の木曜日☆近江文代のバックナンバー】
>>〔10〕来たことも見たこともなき宇都宮 筑紫磐井
>>〔11〕「月光」旅館/開けても開けてもドアがある 高柳重信
>>〔12〕コンビニの枇杷って輪郭だけ 原ゆき
>>〔13〕南浦和のダリヤを仮のあはれとす 摂津幸彦
【2023年6月の火曜日☆北杜駿のバックナンバー】
>>〔1〕田を植ゑるしづかな音へ出でにけり 中村草田男
>>〔2〕妻のみ恋し紅き蟹などを歎かめや 中村草田男
>>〔3〕虹の後さづけられたる旅へ発つ 中村草田男
>>〔4〕鶏鳴の多さよ夏の旅一歩 中村草田男
【2023年6月の水曜日☆古川朋子のバックナンバー】
>>〔6〕妹の手をとり水の香の方へ 小山玄紀
>>〔7〕金魚屋が路地を素通りしてゆきぬ 菖蒲あや
>>〔8〕白い部屋メロンのありてその匂ひ 上田信治
>>〔9〕夕凪を櫂ゆくバター塗るごとく 堀本裕樹
【2023年5月の火曜日☆千野千佳のバックナンバー】
>>〔5〕皮むけばバナナしりりと音すなり 犬星星人
>>〔6〕煮し蕗の透きとほりたり茎の虚 小澤實
>>〔7〕手の甲に子かまきりをり吹きて逃す 土屋幸代
>>〔8〕いつまでも死なぬ金魚と思ひしが 西村麒麟
>>〔9〕夏蝶の口くくくくと蜜に震ふ 堀本裕樹
【2023年5月の水曜日☆古川朋子のバックナンバー】
>>〔1〕遠き屋根に日のあたる春惜しみけり 久保田万太郎
>>〔2〕電車いままつしぐらなり桐の花 星野立子
>>〔3〕葉桜の頃の電車は突つ走る 波多野爽波
>>〔4〕薫風や今メンバー紹介のとこ 佐藤智子
>>〔5〕ハフハフと泳ぎだす蛭ぼく音痴 池禎章
【2023年4月の火曜日☆千野千佳のバックナンバー】
>>〔1〕春風にこぼれて赤し歯磨粉 正岡子規
>>〔2〕菜の花や部屋一室のラジオ局 相子智恵
>>〔3〕生きのよき魚つめたし花蘇芳 津川絵理子
>>〔4〕遠足や眠る先生はじめて見る 斉藤志歩
【2023年4月の水曜日☆山口遼也のバックナンバー】
>>〔6〕赤福の餡べつとりと山雪解 波多野爽波
>>〔7〕眼前にある花の句とその花と 田中裕明
>>〔8〕対岸の比良や比叡や麦青む 対中いずみ
>>〔9〕美しきものに火種と蝶の息 宇佐美魚目
【2023年3月の火曜日☆三倉十月のバックナンバー】
>>〔1〕窓眩し土を知らざるヒヤシンス 神野紗希
>>〔2〕家濡れて重たくなりぬ花辛夷 森賀まり
>>〔3〕菜の花月夜ですよネコが死ぬ夜ですよ 金原まさ子
>>〔4〕不健全図書を世に出しあたたかし 松本てふこ【←三倉十月さんの自選10句付】
【2023年3月の水曜日☆山口遼也のバックナンバー】
>>〔1〕鳥の巣に鳥が入つてゆくところ 波多野爽波
>>〔2〕砂浜の無数の笑窪鳥交る 鍵和田秞子
>>〔3〕大根の花まで飛んでありし下駄 波多野爽波
>>〔4〕カードキー旅寝の春の灯をともす トオイダイスケ
>>〔5〕桜貝長き翼の海の星 波多野爽波
【2023年2月の火曜日☆鈴木総史のバックナンバー】
>>〔6〕立春の零下二十度の吐息 三品吏紀
>>〔7〕背広来る来るジンギスカンを食べに来る 橋本喜夫
>>〔8〕北寄貝桶ゆすぶつて見せにけり 平川靖子
>>〔9〕地吹雪や蝦夷はからくれなゐの島 櫂未知子
【2023年2月の水曜日☆楠本奇蹄のバックナンバー】
>>〔1〕うらみつらみつらつら椿柵の向う 山岸由佳
>>〔2〕忘れゆくはやさで淡雪が乾く 佐々木紺
>>〔3〕雪虫のそつとくらがりそつと口笛 中嶋憲武
>>〔4〕さくら餅たちまち人に戻りけり 渋川京子
【2023年1月の火曜日☆鈴木総史のバックナンバー】
>>〔1〕年迎ふ父に胆石できたまま 島崎寛永
>>〔2〕初燈明背にあかつきの雪の音 髙橋千草
>>〔3〕蝦夷に生まれ金木犀の香を知らず 青山酔鳴
>>〔4〕流氷が繋ぐ北方領土かな 大槻独舟
>>〔5〕湖をこつんとのこし山眠る 松王かをり
【2023年1月の水曜日☆岡田由季のバックナンバー】
>>〔1〕さしあたり坐つてゐるか鵆見て 飯島晴子
>>〔2〕潜り際毬と見えたり鳰 中田剛
>>〔3〕笹鳴きに覚めて朝とも日暮れとも 中村苑子
>>〔4〕血を分けし者の寝息と梟と 遠藤由樹子
【2022年11・12月の火曜日☆赤松佑紀のバックナンバー】
>>〔1〕氷上と氷中同じ木のたましひ 板倉ケンタ
>>〔2〕凍港や旧露の街はありとのみ 山口誓子
>>〔3〕境内のぬかるみ神の発ちしあと 八染藍子
>>〔4〕舌荒れてをり猟銃に油差す 小澤實
>>〔5〕義士の日や途方に暮れて人の中 日原傳
>>〔6〕枯野ゆく最も遠き灯に魅かれ 鷹羽狩行
>>〔7〕胸の炎のボレロは雪をもて消さむ 文挾夫佐恵
>>〔8〕オルゴールめく牧舎にも聖夜の灯 鷹羽狩行
>>〔9〕去年今年詩累々とありにけり 竹下陶子
【2022年11・12月の水曜日☆近江文代のバックナンバー】
>>〔1〕泣きながら白鳥打てば雪がふる 松下カロ
>>〔2〕牡蠣フライ女の腹にて爆発する 大畑等
>>〔3〕誕生日の切符も自動改札に飲まれる 岡田幸生
>>〔4〕雪が降る千人針をご存じか 堀之内千代
>>〔5〕トローチのすつと消えすつと冬の滝 中嶋憲武
>>〔6〕鱶のあらい皿を洗えば皿は海 谷さやん
>>〔7〕橇にゐる母のざらざらしてきたる 宮本佳世乃
>>〔8〕セーターを脱いだかたちがすでに負け 岡野泰輔
>>〔9〕動かない方も温められている 芳賀博子
【2022年10月の火曜日☆太田うさぎ(復活!)のバックナンバー】
>>〔92〕老僧の忘れかけたる茸の城 小林衹郊
>>〔93〕輝きてビラ秋空にまだ高し 西澤春雪
>>〔94〕懐石の芋の葉にのり衣被 平林春子
>>〔95〕ひよんの実や昨日と違ふ風を見て 高橋安芸
【2022年9月の水曜日☆田口茉於のバックナンバー】
>>〔5〕運動会静かな廊下歩きをり 岡田由季
>>〔6〕後の月瑞穂の国の夜なりけり 村上鬼城
>>〔7〕秋冷やチーズに皮膚のやうなもの 小野あらた
>>〔8〕逢えぬなら思いぬ草紅葉にしゃがみ 池田澄子
【2022年9月の火曜日☆岡野泰輔のバックナンバー】
>>〔1〕帰るかな現金を白桃にして 原ゆき
>>〔2〕ビル、がく、ずれて、ゆくな、ん、てきれ、いき、れ なかはられいこ
>>〔3〕サフランもつて迅い太子についてゆく 飯島晴子
>>〔4〕琴墜ちてくる秋天をくらりくらり 金原まさ子
【2022年9月の水曜日☆田口茉於のバックナンバー】
>>〔1〕九月来る鏡の中の無音の樹 津川絵理子
>>〔2〕雨月なり後部座席に人眠らせ 榮猿丸
>>〔3〕秋思かがやくストローを嚙みながら 小川楓子
>>〔4〕いちじくを食べた子供の匂ひとか 鴇田智哉
【2022年6月の火曜日☆杉原祐之のバックナンバー】
>>〔1〕仔馬にも少し荷を付け時鳥 橋本鶏二
>>〔2〕ほととぎす孝君零君ききたまへ 京極杞陽
>>〔3〕いちまいの水田になりて暮れのこり 長谷川素逝
>>〔4〕雲の峰ぬつと東京駅の上 鈴木花蓑
【2022年6月の水曜日☆松野苑子のバックナンバー】
>>〔1〕でで虫の繰り出す肉に後れをとる 飯島晴子
>>〔2〕襖しめて空蟬を吹きくらすかな 飯島晴子
>>〔3〕螢とび疑ひぶかき親の箸 飯島晴子
>>〔4〕十薬の蕊高くわが荒野なり 飯島晴子
>>〔5〕丹田に力を入れて浮いて来い 飯島晴子
【2022年5月の火曜日☆沼尾將之のバックナンバー】
>>〔1〕田螺容れるほどに洗面器が古りし 加倉井秋を
>>〔2〕桐咲ける景色にいつも沼を感ず 加倉井秋を
>>〔3〕葉桜の夜へ手を出すための窓 加倉井秋を
>>〔4〕新綠を描くみどりをまぜてゐる 加倉井秋を
>>〔5〕美校生として征く額の花咲きぬ 加倉井秋を
【2022年5月の水曜日☆木田智美のバックナンバー】
>>〔1〕きりんの子かゞやく草を喰む五月 杉山久子
>>〔2〕甘き花呑みて緋鯉となりしかな 坊城俊樹
>>〔3〕ジェラートを売る青年の空腹よ 安里琉太
>>〔4〕いちごジャム塗れとおもちゃの剣で脅す 神野紗希
【2022年4月の火曜日☆九堂夜想のバックナンバー】
>>〔1〕回廊をのむ回廊のアヴェ・マリア 豊口陽子
>>〔2〕未生以前の石笛までも刎ねる 小野初江
>>〔3〕水鳥の和音に還る手毬唄 吉村毬子
>>〔4〕星老いる日の大蛤を生みぬ 三枝桂子
【2022年4月の水曜日☆大西朋のバックナンバー】
>>〔1〕大利根にほどけそめたる春の雲 安東次男
>>〔2〕回廊をのむ回廊のアヴェ・マリア 豊口陽子
>>〔3〕田に人のゐるやすらぎに春の雲 宇佐美魚目
>>〔4〕鶯や米原の町濡れやすく 加藤喜代子
【2022年3月の火曜日☆松尾清隆のバックナンバー】
>>〔1〕死はいやぞ其きさらぎの二日灸 正岡子規
>>〔2〕菜の花やはつとあかるき町はつれ 正岡子規
>>〔3〕春や昔十五万石の城下哉 正岡子規
>>〔4〕蛤の吐いたやうなる港かな 正岡子規
>>〔5〕おとつさんこんなに花がちつてるよ 正岡子規
【2022年3月の水曜日☆藤本智子のバックナンバー】
>>〔1〕蝌蚪乱れ一大交響楽おこる 野見山朱鳥
>>〔2〕廃墟春日首なきイエス胴なき使徒 野見山朱鳥
>>〔3〕春天の塔上翼なき人等 野見山朱鳥
>>〔4〕春星や言葉の棘はぬけがたし 野見山朱鳥
>>〔5〕春愁は人なき都会魚なき海 野見山朱鳥
【2022年2月の火曜日☆永山智郎のバックナンバー】
>>〔1〕年玉受く何も握れぬ手でありしが 髙柳克弘
>>〔2〕復讐の馬乗りの僕嗤っていた 福田若之
>>〔3〕片蔭の死角から攻め落としけり 兒玉鈴音
>>〔4〕おそろしき一直線の彼方かな 畠山弘
【2022年2月の水曜日☆内村恭子のバックナンバー】
>>〔1〕琅玕や一月沼の横たはり 石田波郷
>>〔2〕ミシン台並びやすめり針供養 石田波郷
>>〔3〕ひざにゐて猫涅槃図に間に合はず 有馬朗人
>>〔4〕仕る手に笛もなし古雛 松本たかし
【2022年1月の火曜日☆菅敦のバックナンバー】
>>〔1〕賀の客の若きあぐらはよかりけり 能村登四郎
>>〔2〕血を血で洗ふ絨毯の吸へる血は 中原道夫
>>〔3〕鉄瓶の音こそ佳けれ雪催 潮田幸司
>>〔4〕嗚呼これは温室独特の匂ひ 田口武
【2022年1月の水曜日☆吉田林檎のバックナンバー】
>>〔1〕水底に届かぬ雪の白さかな 蜂谷一人
>>〔2〕嚔して酒のあらかたこぼれたる 岸本葉子
>>〔3〕呼吸するごとく雪降るヘルシンキ 細谷喨々
>>〔4〕胎動に覚め金色の冬林檎 神野紗希
【2021年12月の火曜日☆小滝肇のバックナンバー】
>>〔1〕柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺 正岡子規
>>〔2〕内装がしばらく見えて昼の火事 岡野泰輔
>>〔3〕なだらかな坂数へ日のとある日の 太田うさぎ
>>〔4〕共にゐてさみしき獣初しぐれ 中町とおと
【2021年12月の水曜日☆川原風人のバックナンバー】
>>〔1〕綿入が似合う淋しいけど似合う 大庭紫逢
>>〔2〕枯葉言ふ「最期とは軽いこの音さ」 林翔
>>〔3〕鏡台や猟銃音の湖心より 藺草慶子
>>〔4〕みな聖樹に吊られてをりぬ羽持てど 堀田季何
>>〔5〕ともかくもくはへし煙草懐手 木下夕爾
【2021年11月の火曜日☆望月清彦のバックナンバー】
>>〔1〕海くれて鴨のこゑほのかに白し 芭蕉
>>〔2〕木枯やたけにかくれてしづまりぬ 芭蕉
>>〔3〕葱白く洗ひたてたるさむさ哉 芭蕉
>>〔4〕埋火もきゆやなみだの烹る音 芭蕉
>>〔5-1〕蝶落ちて大音響の結氷期 富沢赤黄男【前編】
>>〔5-2〕蝶落ちて大音響の結氷期 富沢赤黄男【後編】
【2021年11月の水曜日☆町田無鹿のバックナンバー】
>>〔1〕秋灯机の上の幾山河 吉屋信子
>>〔2〕息ながきパイプオルガン底冷えす 津川絵理子
>>〔3〕後輩の女おでんに泣きじゃくる 加藤又三郎
>>〔4〕未婚一生洗ひし足袋の合掌す 寺田京子
【2021年10月の火曜日☆千々和恵美子のバックナンバー】
>>〔1〕橡の実のつぶて颪や豊前坊 杉田久女
>>〔2〕鶴の来るために大空あけて待つ 後藤比奈夫
>>〔3〕どつさりと菊着せられて切腹す 仙田洋子
>>〔4〕藁の栓してみちのくの濁酒 山口青邨
【2021年10月の水曜日☆小田島渚のバックナンバー】
>>〔1〕秋の川真白な石を拾ひけり 夏目漱石
>>〔2〕稻光 碎カレシモノ ヒシメキアイ 富澤赤黄男
>>〔3〕嵐の埠頭蹴る油にもまみれ針なき時計 赤尾兜子
>>〔4〕野分吾が鼻孔を出でて遊ぶかな 永田耕衣
【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】