季語・歳時記

【春の季語】春の月

【春の季語=三春(2月〜4月)】春の月

俳句で「」といえば、秋の季語ですが、「春の月」は「夏の月」や「冬の月」と比べると情緒的な味わいがあるかもしれません。「」 に包まれて、柔らかくほのかにかすんで見えるときは、なおさら。そういう月をイメージさせるには「朧月」というとっておきの言葉があるわけなので、「春の月」といえば、一般には、春に観察される「朧ではない」月ということになるのでしょう。

春三日月」「春満月」などと月齢を明示することもあります。


【春の月(上五)】
春の月騒人楼に上りけり 大須賀乙字
春の月さしこむ家に宿とりて 前田普羅
春の月水のおもてにとゞきけり 日野草城
春の月海ある方へ犬走る 山口誓子
春の月わが禿頭を照し初む 金子兜太
春の月車輌継ぎ目に濡れて立ち 今井聖
春の月バレエ群舞の中にあり 対馬康子
春の月大輪にして一重なる 長谷川櫂
春の月水の音して上りけり 正木ゆう子
春の月階段に掛けあるは鞍 中田剛

【春の月(中七)】
夜詣の春の月へも手を合せ 後藤比奈夫
もう春の月と呼んでもいい親しさ 中西ひろ美

【春の月(下五)】
清水の上から出たり春の月 森川許六
出駕籠まつ軒の低さや春の月 井上井月
かけたよりみちておほろや春の月 正岡子規
五六騎のゆたりと乗りぬ春の月 河東碧梧桐
我宿は巴里外れの春の月 高濱虚子
蹴あげたる鞠のごとくに春の月 富安風生
落書を消しにゆく子や春の月 竹久夢二
ふるさとや石垣歯朶に春の月 芝不器男
人を焼くけむりの触るる春の月 日野草城
まどかなり銀座まつりの春の月 久保田万太郎
あの猫のふぐり二つや春の月 阿波野青畝
国原や桑のしもとに春の月 阿波野青畝
暮雪飛び風鳴りやがて春の月 水原秋桜子
春の月上がりて暗き波間かな 後藤夜半
人の妻を盗む狐や春の月  松瀬青々
京の人京へ帰りぬ春の月 籾山梓月
外にも出よ触るるばかりに春の月 中村汀女
砂の上に波ひろがりぬ春の月 橋本鶏二
逆立つるべき眉もなし春の月 桂信子
人影のにはかに遠し春の月 高浜年尾
世は藪の中なり春の月わたる 能村登四郎
胸の幅いつぱいに出て春の月 川崎展宏
八景の一景の浦春の月 松崎鉄之介
蟻出でて葉をふみあるく春の月 宇佐美魚目
妻の肩へのりたるやうに春の月 今井杏太郎
伊賀よりも甲賀は寒し春の月 大峯あきら
金平糖の黄色が好きで春の月 渡辺鶴来
もののけの遊ぶ吉野の春の月 岩垣子鹿
ほつとする出逢ひに似たり春の月 嶋田一歩
湯の花の手よりこぼれて春の月 須賀ゆかり
少年は兎飼ふべし春の月 宮坂静生
車にも仰臥という死春の月 高野ムツオ
くろもじで切るカステラや春の月 広渡敬雄
首里城の赤屋根照らし春の月 澤聖紫
水の地球すこしはなれて春の月 正木ゆう子
我法学士妻文学士春の月 小川軽舟
明日会ふ人の電話や春の月 小川軽舟
あたらしき畝光けり春の月 高田正子
沈むとも浮くとも思ふ春の月 関根空
触るる木の真上に上がる春の月 井越芳子
水桶の水に浮かべて春の月 ペール・ヴェストベリィ
玄室の上古をのぞく春の月 天野小石
百年は生きよみどりご春の月 仙田洋子
いつまでも吠えてゐる犬春の月 春日愚良子
うるみ目のひとを妻とし春の月 田代青山
蔓薔薇のおびただしきや春の月 岡田一実
書庫に窓ひとつきりなる春の月 神野紗希


【その他】
春の月ありしところに梅雨の月 高野素十



【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】



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