みな聖樹に吊られてをりぬ羽持てど 堀田季何【季語=聖樹(冬)】


みな聖樹に吊られてをりぬ羽持てど)

堀田季何

今週土曜日はクリスマス。皆さまはクリスマスをどのように過ごされますか。

個人的には、俳句でクリスマスを詠むのはなかなか難しい。思い返してみても、おそらく自作で季語にクリスマスを詠み込んだものはない。いろいろと考えてみたが、この難しさの背景には、「クリスマス」という言葉のもつ刹那的な面、そして儀式的な面の二面性が関係しているように思う。前者の面では、商業的に作られた「恋人たちのクリスマス」的なイメージに縛られてなんだか自句を陳腐に感じてしまう。また逆に後者の面だと、宗教的な背景等、信仰のない私などには儀式としての大切さ、切実な感情が捉えづらいのである。

 みな聖樹に吊られてをりぬ羽持てど 堀田季何

さて、本日取り上げるのはこちらの句。
先述したどちらの情緒にも流されず、淡々とモノを描く。読者が吊られているものの正体に気づくのは下五。そこからイメージが句を遡行して、オーナメントの天使たちが一気に輝き出すのである。

本来翼は自由の象徴だ。しかし掲句の翼もつものは背中の紐によってその場を離れることができない。読者の人生を媒介して、ここに描かれる天使たちに現代を生きる人間のさまざまな様態を重ねることも可能だろう。

詩歌集の名は『人類の午後』。一冊の名と句の照応に筆者はしびれてしまうのである。

川原風人)


【執筆者プロフィール】
川原風人(かわはら・ふうと)
平成2年生まれ。鷹俳句会所属。平成30年、鷹新人賞受賞。俳人協会会員



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