冷汗もかき本当の汗もかく 後藤立夫【季語=汗(夏)】

冷汗もかき本当のもかく

後藤立夫ごとう・たつお

 バスケ練習後の飲み会で、星占いの話になった。西洋占星術で蟹座は、今年の6月から約1年間、「広がる」がテーマとなる。私は蟹座ではないけれど、以前、同じような星回りの時に身につまされたことがあったので、そのことについて話した。もし万が一、体調に変化を感じたら、瑣末なことと放っておかないで病院に行く方がいいこと、病気に関しては何事も早期発見、早期対応が良いこと。これは、星座に関係なく健康管理としていつでも誰にでも大切なことだけれど、「広がる」運勢に入った蟹座の人は特に心に留めて欲しい。後日、その場にいた蟹座の方から「突き指だと思っていたけれど、占いを参考に受診したら骨折していました」という連絡があった。

 脅威的な粘りで山王工業との点差を一桁に縮めた湘北だが、山王工業のスーパーエース、沢北栄治さわきた・えいじが立ちはだかる。再び開く点差。しかし、ここから流川がプレイスタイルを変える。パスを駆使し、味方を活かすことにより互角の勝負に持ち込み、再び追い上げる湘北。そんな中、ルーズボールを追いかけた花道が背中を強打する(新装再編版19巻239ページ)。

冷汗もかき本当の汗もかく

「冷汗」とは、交感神経が優位になることによる発汗だ。普通の汗と違うのは体温の上昇とは関係がないことで、精神的な緊張やストレス、不安などがあるときにかく。この句は、冷汗の他に本当の汗をかいている。であれば、やはりスポーツの試合中だろう。バスケに限らず、スポーツでは緊張する場面が何度もある。野球であれば、同点の9回裏、二死満塁の局面とか。ラグビーなら、後半ロスタイムの逆転を狙うトライなど。スポーツのこういった局面は、緊張の場面でありドラマチックでもある。また、試合中の接触等で選手が大きく倒れれば、選手本人だけでなく観客も冷汗をかく。作者は、ホトトギス同人の後藤立夫ごとう・たつお。後藤比奈夫の長男として1943年に生まれた。

 背中を強打しながらボールにくらいつく花道の姿に、湘北を応援する観客が増え始める。湘北は流れを引き寄せ、とうとう5点差にまで詰め寄る。ところが、花道は背中に異変を感じていた。異変は次第に鋭い痛みへと変わってゆく。

岸田祐子


2025年4月から連載スタートした岸田祐子さんの「スラムダン句」も残り2回!!
最終回(8月31日)では、読者のみなさんから募集した
「あなたが見つけたSLAM DUN句」
について、岸田祐子さんが語ります。
この俳句は、「SLAM DUNK」の景として読める!
と思う句を、以下のフォーム(画像をクリック)からコメントを添えて、ご投稿ください。
締切は【2025年8月25日(月)】です。
ご投稿お待ちしています🏀


【執筆者プロフィール】
岸田祐子(きしだ・ゆうこ)
「ホトトギス」同人。第20回日本伝統俳句協会新人賞受賞。


【岸田祐子のバックナンバー】
〔1〕今日何も彼もなにもかも春らしく 稲畑汀子
〔2〕自転車がひいてよぎりし春日影 波多野爽波
〔3〕朝寝して居り電話又鳴つてをり 星野立子
〔4〕ゆく春や心に秘めて育つもの 松尾いはほ
〔5〕生きてゐて互いに笑ふ涼しさよ 橋爪巨籟
〔6〕みじかくて耳にはさみて洗ひ髪 下田實花
〔7〕彼のことを聞いてみたくて目を薔薇に 今井千鶴子
〔8〕やす扇ばり/\開きあふぎけり 高濱虚子
〔9〕人生の今を華とし風薫る 深見けん二
〔10〕白衣より夕顔の花なほ白し 小松月尚
〔11〕滅却をする心頭のあり涼し 後藤比奈夫
〔12〕暑き日のたゞ五分間十分間 高野素十
〔13〕夏めくや海へ向く窓うち開き 成瀬正俊
〔14〕明日のなきかに短夜を使ひけり 田畑美穂女
〔15〕ゆかた着のとけたる帯を持ちしまま 飯田蛇笏
〔16〕宿よりは遠くはゆかず夜の秋 高橋すゝむ
〔17〕夕立の真只中を走り抜け 高濱年尾
〔18〕苺まづ口にしショートケーキかな 高濱年尾
〔19〕汗の人ギユーツと眼つむりけり 京極杞陽


◆映画版も大ヒットしたバスケットボール漫画の金字塔『SLAM DUNK』。連載当時に発売された通常版(全31巻)のほか、2001年3月から順次発売された「完全版」(全24巻)、2018年に発売された「新装再編版」(全20巻)があります。管理人の推しは、神宗一郎。



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