連載・よみもの

趣味と写真と、ときどき俳句と【#11】異国情緒


趣味と写真と、ときどき俳句と
【#11】異国情緒

青木亮人(愛媛大学准教授)


愛媛県の伊予市に行った時、上のような写真を撮った。高架線路を鈍行列車がのんびり走り、その下には水田が広がっている。六月上旬の梅雨頃で、すでに蒸し暑く、強い陽ざしが降り注いでいた。

この写真をアメリカの知り合いに見せたところ、とても驚き、「日本ではこういう景色は普通なのか?」と質問があった。

「よくある景色ではないけれど、地方に行くと割合見ることができるよ」と答えると、知り合いは再び驚いたようだった。「アメリカではこんな景色には出会えない。日本のアニメの中でしか観ることができない。まるで「千と千尋の神隠し」のようにエキゾチックな情景だ。いつかそこに行ってみたいよ」と言う。

なるほど、と感じた。

当然ながら、アメリカにこういう景色はないだろう。車社会で、アジアのように水田地帯もなく、それも高架線路をワンマン車両がのんびり走るなどというのは、農耕民族の島国ならではの光景なのかもしれない。山や川が多く、その間を縫うように田畑が広がり、その上を電車が走る……狭い土地を工夫して活用してきた日本らしい情景ともいえよう。

個人的には、ワンマン車両と水田の組み合わせがのどかな愛媛らしい景色と感じ、写真に撮ったのだが、アメリカ人からすると、「千と千尋の神隠し」を彷彿とさせる異国情緒を感じたようだった。

ところで、写真には青空の右上あたりにグライダーが映っている。ワンマン電車がのんびり去った後、黄色いグライダーは青空をゆっくり降下し、やがて視界から消えていった。

その間、周りには音もなく、風はとだえ、時おり鳥の鳴き声が響くのみだった。人も通らず、車の往来もなく、グライダーが消えた後はカメラを肩からぶら下げながら昼下がりの村を散策した。

なかなか贅沢なひとときだった、今ではと思う。

【次回は6月15日ごろ配信予定です】


【執筆者プロフィール】
青木亮人(あおき・まこと)
昭和49年、北海道生れ。近現代俳句研究、愛媛大学准教授。著書に『近代俳句の諸相』『さくっと近代俳句入門』など。


【「趣味と写真と、ときどき俳句と」バックナンバー】
>>[#10] 食事の場面
>>[#9] アメリカの大学とBeach Boys
>>[#8] 書きものとガムラン
>>[#7] 「何となく」の読書、シャッター
>>[#6] 落語と猫と
>>[#5] 勉強の仕方
>>[#4] 原付の上のサバトラ猫
>>[#3] Sex Pistolsを初めて聴いた時のこと
>>[#2] 猫を撮り始めたことについて
>>[#1] 「木綿のハンカチーフ」を大学授業で扱った時のこと



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