冬の季語

【冬の季語】神無月/かみなづき 神去月 神在月 時雨月 初霜月

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【冬の季語=初冬(11月)】神無月/かみなづき 神去月 神在月 時雨月 初霜月

【解説】現在の11月は、陰暦の「神無月」。もともとは「無」の文字は、「いない」という意味ではなく、現在の「の」にあたる助詞「な」を漢字表記しただけなので、英語のnewsが「東西南北」の頭文字をとってできた(本当は「新しいことnew」の複数形)、というような「民間語源」というやつです。

なにごとも行きて祈らむと思ひしに神な月にもなりにけるかな  曾禰好忠

こちらは平安時代後期に編まれた『詞花和歌集』に収録された一首。「祈りに行こうと思っていたのに」と言っているわけですから、この時点ですでに「神な月」は「無」というイメージの遊びが実践されていたのですね、きっと。

現在の暦では、11月7日、8日ごろが「立冬」にあたりますが、諸国の神々が一年に一度の「会議」のために出雲に行ってしまうように、つまり急に神様がいなくなってしまったかのように、急に寒くなったりする時期、それが11月。俳句では「神の留守」なんていう言い方をしますが、この時期の寒さを考えると、なかなか実感のある言葉です。

まあ、じゃあ出雲だけはあったかいんか!とツッコミを入れたくなりますが、もちろんそんなことはないです。11月の出雲の気温の平均は、15度くらい。むしろ東京よりたぶん寒いですね。

さて『日国』によれば、「神無月」という言葉の初出は、日本書紀。雄略天皇即位前の「孟冬(カムナツキ)の作陰(すす)しき月(つき)」に遡ることができるとありますが、「孟冬」はいまでいう「初冬」のこと。平安中期以降、陰暦10月1日には「孟冬の旬」という鮎の稚魚を食べるパーティが宮廷で行われていたそうです。

この鮎の稚魚は「氷魚」と呼ばれ、いまでも天然アユ漁が行われる琵琶湖では「冬の味覚」になっています。「エリ」と呼ばれる定置網をつかって捕獲される稚魚は、白魚と同じように透き通ったからだをもち、3~6センチくらいの大きさ。釜揚げにすると、やはり「しらす」のように熱を加えると白くなります。琵琶湖のアユ漁の解禁は現在「12月1日」なのですが、「孟冬の旬」はこの1か月ほど前に行われていたので、冬の到来を喜ぶようなニュアンスもありますね。「無」という漢字(感じ)に騙されちゃあいけません。

「神の留守」という言葉が、歳時記頬に初めて出てくるのは立甫編の『はなひ草』(1636年)で、「四季之詞『神の留主(ルス) 時雨 霜』」とあります。つまり、芭蕉が17世紀末に次のような句を残したときは、すでに「季の詞」として認知ということなのでしょう。

留主のまに荒れたる神の落葉かな

2年半以上も家を留守にしていた芭蕉が江戸に戻ってきたのは、元禄4年、10月29日のこと。ちょうど神様が出雲から戻ってくるタイミングだったため、機転を利かせて、旅の終わりにこんな句を詠んだのでしょうが、この日を新暦に換算すると「1691年、12月18日」。ほとんどクリスマス直前! そりゃ寒いわなあ。落葉もがっさがさ。

「この句の意味を解釈すると、この留守といふのは神の留守のことであって十月になると諸国の神々が出雲に集まつて神集ひに集うて評議をなさるといふ云ひならはしがある。そこで十月は神さまがお留守である。そのお留守間に、神社の境内の樹々が落葉をしてお宮の境内は荒れて居る。お留守の間だから掃き掃除も怠ってをるといふ訳ではあるまいが、何となくそんな心地がして荒て見えるとさういふ句である。「荒れたる」とあるがために落葉が神の庭一面に散りつもつているやうすがわかる。」「評釈芭蕉八十一 句」(「芭蕉」昭和26年、 中央公論社刊)

これは高濱虚子の評なのですが、ここから若いころの彼が〈留守かやい封じこめたる狐ども〉〈しぐれつつ留守守る神の銀杏かな〉〈霜白き糺の森や神の留守〉〈一筋に神をたのみて送りけり〉など、時としてかなり奔放に作っていることを、小澤實さんが「明治二十八年、二十九年の虚子」という文章のなかで書かれています。

【関連季語】神の留守、十一月、冬めく、初霜、時雨など。


【神無月】
風寒し破れ障子の神無月 山崎宗鑑
神無月ふくら雀にまづ寒き 宝井其角
卵塔の鳥居やげにも神無月 宝井其角
船馬にまた泣よるや神無月 向井去来
拍手もかれ行森や神無月 横井也有
空狭き都に住むや神無月 夏目漱石
宮柱太しく立ちて神無月 高濱虚子
葬人の野に曳くかげや神無月 飯田蛇笏
山妻や髪たぼながに神無月 飯田蛇笏
山に遊ぶ水車の鶏や神無月 飯田蛇笏
たらちねとして日々深し神無月 中村草田男
薬草の一束揺れる神無月 飯田龍太
梯子より人の匂ひや神無月 桂信子
後朝(きぬぎぬ)や/いづこも/伊豆の/神無月 高柳重信
とことはに黄味さす父母や神無月 三橋敏雄
近海へ入り来る鮫よ神無月 赤尾兜子
室を穹ぎて鼠を燻す神無月 金子兜太
太鼓打つ妓の眦も神無月 瀬戸内寂聴
神無月天狗に手紙書きし者 有馬朗人
力瘤らしきがわれに神無月 宇多喜代子
味噌蔵の中あたたかし神無月 橋本榮治
神無月主治医変はりてゐたりけり 秋本ひろし
影踏みは男女の遊び神無月 坪内稔典
立ち上がる波裏くらき神無月 雨宮きぬよ
栴檀の大き木蔭や神無月 田中裕明
馬小屋に馬の表札神無月 宮本郁江
カナリヤをひきずる猫も神無月 岸本尚毅
早朝のミサに始まる神無月 稲畑廣太郎
もみがらに卵つめたし神無月 小川軽舟
図書館にいちにちこもる神無月 佐川広治
〈王〉(ケーニッヒ)の耳ひとつ多し神無月 小野裕三
チンアナゴみな西を向く神無月 なつはづき

【神在月】
ほのめきも神有月や旅社 松根東洋城
日あたりて神有月の太柱 大峯あきら

【時雨月】
野々宮やさしわたりたる時雨月 鈴木花蓑


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