菱形に赤子をくるみ夏座敷 対中いずみ【季語=夏座敷(夏)】


菱形に赤子をくるみ夏座敷

対中いずみ

対中いずみさんとはじめてお会いしたのも、『木簡』の読売文学賞受賞を祝う会であった。いずみさんは『静かな場所』や『週刊俳句』での連載「空へゆく階段」などによって、田中裕明を後世に語り継ぐという貴重な仕事を続けていらっしゃる方である。

そんないずみさんが、「秋草」の会員となられた。結社誌で新作を読ませていただいたり、ときには句会でご一緒したりして、近くで学ばせていただくことができるのはとてもありがたい。

掲句は『秋草』2023年10月号掲載の一句。赤子の頭と足をタオルの対角線上に寝かせてくるむ。上五の「菱形」という一語で実感を伴って景を受け入れることができる。そして季語「夏座敷」。ひんやりとした畳の感触や赤子を取り巻く大人たちの顔、くるまれた後に代わる代わる抱かれていく赤子の姿までがしっかりと見えてくる。

いずみさんには堅田を中心とした自然をのびのびと描かれた名句がたくさんあるが、何気ない日常の中での人物を描いた句もとても魅力的である。

常原 拓


【執筆者プロフィール】
常原 拓(つねはら・たく)
1979年 神戸市生まれ
2016年 「秋草」入会 山口昭男に師事
2023年 第7回俳人協会新鋭俳句賞準賞
2024年 第一句集『王国の名』

第7回俳人協会新鋭俳句賞準賞受賞の「秋草」所属の中堅俳人。
待望の第一句集。

常原拓句集『王国の名』

四六判変型上製
200ページ
2000円(税別)

ISBNコード
978-4861985805


2020年10月からスタートした「ハイクノミカタ」。【シーズン1】は、月曜=日下野由季→篠崎央子(2021年7月〜)、火曜=鈴木牛後、水曜=月野ぽぽな、木曜=橋本直、金曜=阪西敦子、土曜=太田うさぎ、日曜=小津夜景さんという布陣で毎日、お届けしてきた記録がこちらです↓



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【セクト・ポクリット管理人より読者のみなさまへ】

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