歳時記のトリセツ

【連載】歳時記のトリセツ(15)/茅根知子さん


【リレー連載】
歳時記のトリセツ(15)/茅根知子さん


このコーナーでは、現役ベテラン俳人のみなさんに、ふだん歳時記をどんなふうに使っているかを、リレー形式でおうかがいしています(好評につきもう少しだけ続けていく予定です)。今回は、四ッ谷龍さんからのリレーで、茅根知子さんです。


【ここまでのリレー】村上鞆彦さん橋本善夫さん鈴木牛後さん中西亮太さん対中いずみさん岡田由季さん大石雄鬼さん池田澄子さん干場達矢さん小津夜景さん佐藤りえさん高山れおなさん関悦史さん四ッ谷龍さん→茅根知子さん


──初めて買った歳時記(季寄せ)は何ですか。いつ、どこで買いましたか

『合本 現代俳句歳時記』 角川春樹 編(角川春樹事務所)

近所の本屋で買いました。

私は俳句を始めようと思って始めたわけではなく、偶然「魚座」の句会を見学したことが、俳句生活の始まりです。よって、歳時記へのこだわりもまったくないまま、ただ赤い表紙がきれいという理由で選びました。買ったものはこの一冊と、札幌の古本屋で見つけた『圖説 俳句大歳時記 全五巻(角川書店)』です。あとは先輩方から譲っていただき、たくさんの歳時記が揃いました。

──現在、メインで使っている歳時記は何ですか。

『現代俳句歳時記』 角川春樹 編(文庫版 ハルキ文庫)

『日本大歳時記』 水原秋櫻子・加藤楸邨・山本健吉 監修(常用版 講談社)

──歳時記はどのように使い分けていますか。

『現代俳句歳時記』は、手軽なので句会や吟行に持参します。

『日本大歳時記』は大きくて重たいので持ち歩くことはなく、家で使っています。

──句会の現場では、どのように歳時記を使いますか。なるべく具体的に教えてください。

選句のとき、季語の本意や傍題を確認するとき等に使います。ほか、席題で作るときの参考にします。

──どの歳時記にも載っていないけれど、ぜひこの句は収録してほしいという句があれば、教えてください。大昔の句でも最近の句でも結構です。

特にありません。

──自分だけの歳時記の楽しみ方やこだわりがあれば、教えていただけますか。

知らない季語に出合ったら、その季語を使って俳句を作ってみます。結果、アタマで作ることになるので成功率は低いですが、作っている過程はとても楽しいです。

物理的な面では、使いやすさを考慮し、すぐ読めるように函やカバーは外して使い倒します。現在使っている文庫版は表紙がヨレヨレになっていますが、“育てた感”があって手に馴染みます。

茅根さんが「育てて」いる歳時記たち(写真=ご本人提供)

──自分が感じている歳時記への疑問や問題点があれば、教えてください。

歳時記の内容についてではないのですが、歳時記の目次の頁表記はどうして漢数字が多いのでしょうか。二三二一とか、四桁になると読みづらい。洋数字を90°右回転で掲載すれば、行間が狭くてもきれいに掲載できるのに、といつも思っています。数字が横向きになっても、人間の目は補正して読んでくれるから問題ありません。

──歳時記に載っていない新しい季語は、どのような基準で容認されていますか。ご自分で積極的に作られることはありますか。

新しい季語=誰かが認めた季語なら、それに対して何か言うことはありません。季語としてしっくりこないと思えば、無季の俳句として考えます。有季・無季どちらも好きです。

「万緑」は中村草田男の〈万緑の中や吾子の歯生え初むる〉が多くの人の共感をよび、季語として定着したと言われています。人口に膾炙し、みんなが使うことで言葉が育ち季語として定着するのでしょう。

──そろそろ季語として歳時記に収録されてもよいと思っている季語があれば、理由とともに教えてください。

特にありません。

個人的な季感を言えば、ひとつ前のQとも関連しますが、猫が蒲団に入ってくるようになると、それを「蒲団猫」と名付け、冬になったことをしみじみ実感します(11月頃です)。

一方、蒲団に入ってくる日が徐々に減り、そのうち自分の寝床で寝るようになると、春の終りを感じます(5月頃です)。もちろん、「蒲団猫」を季語にしたいなどとはまったく考えていません。あくまでも個人の楽しみ方です。

──逆に歳時記に載ってはいるけれど、時代に合っていないと思われる季語、あるいは季節分類を再考すべきだと思われる季語があれば、教えてください。

私の生活や経験に合わない季語はあります。例えば「車組む」「牛馬冷やす」とか見たこともありません。が、それを時代に合わないと言うのは傲慢かと考えます。時代に合わないのではなく、自分に合わないということでしょう。現在もその季語が残っている土地があるかも知れません。その季語を実践している人がいるかも知れません。それを時代に合わないという一方的な理由で再考する(場合によっては削除)なんて言わずに、広い視野を持って残しておいてほしいです。たとえ、その季語の経験がなくても、事実として知ることは生活を豊かにします。

それと、忌日を季語として扱うのは、どうもしっくりきません。忌日はその人が亡くなった季節という偶然で季感はありません。句会の兼題や席題で忌日が出たときは、他の季語と組み合わせて作っています。

──季語について勉強になるオススメの本があったら、理由とともに教えてください。

おススメ本があれば、教えてほしいです。

──最後の質問です。無人島に一冊だけ歳時記をもっていくなら、何を持っていきますか。

正直に申しますと、このような質問は超インドア派の私にとって難しいです。無人島なんて絶対行かないし行こうとも思わないからです。でも、中学生ではないので「たら」の話として想像でお答えします。

歳時記の内容的なこだわりはありませんが、「紙」の歳時記を持って行きます。電子版は手軽で多くの言葉が調べられますが、愛想がありません。その点、紙の歳時記は読み手に寄り添ってくれます。紙の感触や匂い、頁をめくる音、本を開いて文字を見渡す気持ちよさ等々、きっと無人島での辛い生活を癒してくれるでしょう。

──以上の質問を聞いてみたい俳人の方がもしいれば、ご紹介いただけますか。テレフォンショッキング形式で…

宮本佳世乃さんです。「炎環」「豆の木」「オルガン」に所属していて、句集の鑑賞も発表しています。

月1回ほど句会や吟行をご一緒していますが、私にはない発想力があって惹かれます。とても想像力がある方で、例えば、月の裏側の様子とか、見てきたように話してくれると思います(たぶん)。

──それでは次回は、宮本佳世乃さんにお願いしたいと思います。本日は、ありがとうございました。


【今回、ご協力いただいた俳人は……】
茅根知子(ちのね・ともこ)さん
「魚座」「雲」を経て、現在「絵空」同人。第15回俳壇賞受賞。句集に『眠るまで』(2004年 本阿弥書店)『赤い金魚』(2021年 本阿弥書店)、俳人協会会員



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