十一人一人になりて秋の暮
正岡子規
松山での俳句甲子園決勝戦の翌日、私は午後2時の飛行機で東京へ帰る予定だったので、午前中に道後温泉と松山城のツアーを思案していると、三津浜へ吟行しないかというSNSを受信した。参加メンバーは、俳句甲子園の審査委員長を含む計7名。私は特に他へ行くところを決めていなかったので、SNSに「参加します」と即答した。
三津浜は、松山市から電車と徒歩で30分ぐらいの所にある港町である。後でインターネットで調べた情報だが、夏目漱石、正岡子規、高浜虚子などが東京への往来に利用した有名な場所らしい。最寄駅は伊予鉄道「三津駅」、白く塗装されたレトロ風な駅で観光地になっていた。そこを出て信号を渡るとすぐに漁船やレジャーボートが碇泊している港に着いた。この港は遠浅らしく、大きな船が入れないので、小舟で沖まで行ってから大きな船に乗り換えたらしい。確かに、橋の上から水面を見ると、海底が白く輝き、ボラの魚影がよく見えた。
吟行の途中、「三津の渡し」という渡し船に乗った。これは松山市道高浜2号線の一部(約80m)で、年中無休・船賃無料の渡船である。この渡船の歴史が長く、1469年に伊予守河野通春が港山城主の時に利用したのが始めだと言われ、1795年に小林一茶が句会で乗船したらしい。1970年にエンジン付き渡船になるまで、水竿や手漕ぎの時代が長かったと下船した所にある説明書にあった。乗船時間は5分ほどであったが、残暑の厳しい中で風が心地よく、皆が安堵の笑顔になった。
十一人一人になりて秋の暮 正岡子規
掲句は、渡し船を降りて、10分ぐらい歩いた所の句碑に刻まれた句である。1895年(明治28年)正岡子規が故郷での療養のあと再び東京ヘ旅立つ際、宴を催してくれた友人たちと別れた後の寂しさを詠んだものである。私は、フライトの都合でこの句碑を見ることができずに、先にひとり空港へ向かったのだが、後で掲句を知り、「一人になりて」の気持ちと重なるものを感じた。
松山空港に到着すると、機材遅れにより出発が30分遅れるとのアナウンスがあった。事前に分かっていれば、皆と一緒に地元特産「鯛めし」にありつけたのにと残念に思いながら、お土産用の四国銘菓一六タルトの封を開けた。
(塚本武州)
【執筆者プロフィール】
塚本武州(つかもと・ぶしゅう)
1969 年、立川市生まれ。書道家の父親が俳号「武州」を命名。茶道家の母親の影響で俳句を始める。2000年〜2006年までイギリス、フランス、2011年〜2020年までドイツ、シンガポール、台湾に駐在。帰国後、本格的に俳句を習い、2021年4月号より俳誌『ホトトギス』へ出句。現在、社会人学生として、京都芸術大学通信教育部文芸コース及び博物館学芸員課程を履修中。国立市在住。妻と白猫(ユキ)の3人暮らし。
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