黒揚羽に当てられてゐる軀かな
飯島晴子
一見、大きな黒揚羽が勢いよくぶつかってくるような状況を思うし、黒揚羽の肉厚な身が想像される。しかし、よく考えてみると、それにしては「当てられてゐる」がなんとも受動的で、無関心で、のんびりしているのである。思う存分当たりなさい、とでも言うような余裕がある。黒揚羽に、何かを試されているような感じもあれば、誰か別の人により、自分の軀を黒揚羽に押し付けられているような状況も思いつく。以前示した晴子俳句の受身な一面のよくあらわれた一句であろう。
中七は、〈蓮白し頭叩いて呉れに来る〉〈あけぼのの舟をたゝくや白撫子〉なども思わせる。これらの句にも、頭や舟の内部を確かめるような慎重さが読み取れる。一見活発なように見える晴子俳句をしっかり読み込むと、そこには広くゆったりした時空間が広がっていることに気付かされるのである。
(小山玄紀)
【執筆者プロフィール】
小山玄紀(こやま・げんき)
平成九年大阪生。櫂未知子・佐藤郁良に師事、「群青」同人。第六回星野立子新人賞、第六回俳句四季新人賞。句集に『ぼうぶら』。俳人協会会員
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