神保町に銀漢亭があったころ

【クラファン目標達成記念!】神保町に銀漢亭があったころリターンズ【7】/中島凌雲(「銀漢」同人)


早仕舞い

中島凌雲(「銀漢」同人


それは12年前。6月最後の金曜夜のこと。ひょろながい青年が、仕事の途中に見つけた神保町の天婦羅「いもや」で腹ごしらえをした後に、ちょっと酒を飲もうという気になった。友人知人は連絡すれどもつかまらず「しょうがない、では一人で飲むか」と入った店が、俳人の巣窟であったとか。

これが私と銀漢亭との出会いである。「銀漢」創刊の前年であったが、マスターである伊藤伊那男主宰と話をしているうちに、大学の大先輩であり、しかも大学の茶道部に所属されていたことがわかった。そして「何?君も茶道をやっている?では俳句をやりなさい」と、翌週月曜の湯島句会にお誘いいただいた。現在金星句会でご一緒している谷岡健彦さんもその場にいらして、「演劇好きなら」と次の日に新宿ゴールデン街のお芝居に連れていっていただき、観劇後の喫茶店でも勧誘をいただいた記憶がある。

初めて参加した湯島句会は、出句〆切の十九時に近づくと店内はほぼ満員となり外のテラスにまで人があふれる有様で、何百句と俳句が並んだ分厚い清記用紙に正直たじろいだ。とはいえ、お酒好きに加えて喋り好きな性分なので、句会後の懇親会の大勢でわいわいと飲むのが心地よく、俳句よりもそれを目当てに通うようになった。そしてまたそこで「選が良い」などと上手に煽てていただいたり、「Oh!納涼句会」で主宰染筆の団扇を頂戴したりなどしているうちに、ずぶずぶと俳句にのめり込んでいったのである。酒好きの方も、小野寺清人さんに日本酒の会に誘っていただくなどもあって、着実に深まっていった。

「銀漢」の立ち上げ以降は二階にあった発行所への出句のついでなどで、銀漢亭に通う回数も増えた。カウンターのお姐様方の計らいで、句会後の懇親会にのみ千円ぐらいで紛れ込ませてもらえたことも懐かしい(オフレコかな?)。出入りする中では最若手の一人だったこともあったからか、いろんな方が可愛がってくださって、月野ぽぽなさんにはニューヨークに遊びに行った際に案内していただいたこともあった。

九年前の大阪転勤の際には、堀切克洋くんの音頭で盛大な超結社的な壮行会を開いていただいたことも懐かしい(その時の豪華な壮行句集は今も大事にとってある)。その後も出張にかこつけてはお邪魔して、帰りの新幹線まで時間がない場合はビール一杯だけのこともあったが、主宰がいらして必ず誰かしらが飲んでいるということが、自分にとっては東京にも家があるようで、心の大きな支えだったのだと改めて思う。

閉店前年の十二月に主宰と翌月の桂離宮吟行の話をしていると、山崎祐子さんが興味を示されて翌月は一緒に京都を歩いた。二月には竹内宗一郎さんを高野山吟行にお誘いしたが、残念ながらこちらはコロナの影響で吟行会が再開できず、未だに果たせていない。思えばその日が私にとって銀漢亭を訪れた最後となった。 一度びっくりするぐらい早仕舞いの日があって、主宰に近くの飲み屋に連れていっていただいたことがある。俳句の話はあまりしなかったような気もするが、そんな風に主宰とお付き合いができたのも銀漢亭ならではのことであったと思う。神保町に「銀漢亭」がないことを思うと未だに涙が浮かんでくるが、ちょっと(じゃないけど)「早仕舞い」をしたんだと思うことにしたい。いっぱいごちそうさまでした。そして、大変お世話になりました。


【執筆者プロフィール】
中島凌雲(なかじま・りょううん)
昭和60年生。大阪府出身。23年「銀漢」創刊に参加、26年同人。25年4月より故郷にて勤務。俳人協会会員。お酒好きのおかげでお腹周りがぐんぐん成長し、ひょろながくはなくなってしまった模様。


【神保町に銀漢亭があったころリターンズ・バックナンバー】

【6】宇志やまと(「銀漢」同人)「伊那男という名前」
【5】坂口晴子(「銀漢」同人)「大人の遊び・長崎から」
【4】津田卓(「銀漢」同人・「雛句会」幹事)「雛句会は永遠に」
【3】武田花果(「銀漢」「春耕」同人)「梶の葉句会のこと」
【2】戸矢一斗(「銀漢」同人)「「銀漢亭日録」のこと」
【1】高部務(作家)「酔いどれの受け皿だった銀漢亭」


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